リコーダーJP
    


J. C. シックハルト

〜〜快活で気持ちのいい音楽性〜〜



★群小作曲家の一人?★

 ヨハン・クリスティアン・シックハルトはバッハやヘンデルとだいたい同年代の作曲家で、スウェーデン国王に仕えたかと思うとハンブルグに足跡を残しており、さらにバッハも一時期仕えたことで知られるケーテンの宮廷に抱えられたりと、北ヨーロッパ各地を転々としながら作曲活動を続け、最後はオランダに腰を落ち着け、そこで1762年に没したといいます。

 このように転々とせざるを得なかったのは、しっかりした定職を持つことができるほどの才能のない、群小作曲家の一人だからだ・・・などと見下すようなことを言われたりもする人です。が、果たしてそう言ってしまっていいものでしょうか。


★アマチュア奏者たちに大人気だったシックハルト★

 シックハルトには、両手でリコーダーを持って、今にも吹こうとしている(あるいは今演奏が終わったばかりといった感じの)様子をとらえた肖像画があります。

 実際、彼はリコーダー・フルート・オーボエなどの演奏を行ったといわれています。だからこそ、シックハルトは、こうした楽器の特性と魅力をよく知っていて、これらの楽器にぴったりと合う音楽をつくる職人(当時、作曲家はすべて職人でした)として、非常に冴えた腕前を持っていたのです。バロック時代には、リコーダーやフルートを演奏して楽しむアマチュア奏者たちがたくさんいました。そして、シックハルトはそうした奏者たちにとても人気のある作曲家だったのです。生前、その作品が30冊以上も出版され、ヨーロッパ中で売られていたというのは驚くべきことです。

 シックハルトが職を求めて転々としなければならなかったのは事実なのでしょう。しかし、その作品は人々から熱烈に支持されていたのです。今のように音楽著作権が保護されていない時代であったために、その作品の人気ぶりに見合うだけの収入を得ることができなかっただけだったのではないでしょうか。

 もっとも、シックハルトは一度は忘れ去られた作曲家です。18世紀後半以後今日に至る時代は、音楽が「公開演奏会」やCD録音によって「お金を払って鑑賞する」という形で楽しむものになっていますから、そうした場面では、19世紀作品や、バロックでもバッハやビバルディーに比べて、ずっと地味で素朴なシックハルトの作品は、ほとんど愛されていないのは事実です。しかし、楽器演奏を楽しむアマチュア奏者たちは、親しみやすくてしかも爽快な、シックハルトの音楽の魅力をよく知っていました。

 つまり、「演奏して楽しもう」と思っている私たちにとって、シックハルトはけっしてつまらない作曲家ではないのです。むしろ、ルイエなどと並んで、とてもたくさんのすてきな曲を作っておいてくれた、大切な作曲家だと言えるのではないでしょうか。


★シックハルトのリコーダー曲★

 たしかにシックハルトの曲は概して小粒で、劇的な効果や強烈な個性や深い精神性にはとぼしいと言えます。しかしそのかわり、響きがよく流麗で、ときに顔を出す気の利いた和声も新鮮に感じられますし、何より、小気味よい運動性が自然にほとばしり出るようなおもむきが楽しく、演奏していて実に気分のいい音楽なのです。

 実際、このため生前から彼の作品はヨーロッパ中で管楽器奏者たちに親しまれ、イギリスなどでは海賊版の楽譜までが出まわるほどだったといいます。アマチュア奏者たちがいかにシックハルトのソナタを愛していたかがよくわかりますね。

 シックハルトのソナタの速い楽章は、ほぼ楽譜通りに演奏していくことで、スカッとするような小気味よさが味わえます。指使いの都合をよく知っていて書いていますから、速い曲でも意外と演奏しやすいのです。また、ゆっくりな楽章は比較的情緒的にあっさりしているので、むろんいろいろ装飾や変奏は必要でしょうが、楽な気持ちで演奏することで、「気分よく歌う」という楽しさが味わえます。



★きゃっつさんの通奏低音によるシックハルト★

 さて、ここで、ちょっと場ちがいのようですが、リコーダーJPでシックハルト作品の通奏低音の実施を担当してくださっている作曲家・きゃっつさんについて触れるのをお許しください。

 リコーダーJPは、シックハルトのソナタを皆さんにお届けするにあたり、通奏低音実施(つまりチェンバロの右手をどう弾くかを考える、半分作曲のような仕事)をご担当いただくことになったきゃっつさんに、「遠慮なく、表現的な楽しい通奏低音実施をしてください」とお願いしました。そして、きゃっつさんはそれに応えて、存分に腕をふるって楽しい通奏低音を考えてくださっています。

 そう、シックハルトの、素朴といえばごく素朴な内容の音楽。それが、きゃっつさんが書かれた、躍動的で華麗で、現代的センスを存分に盛り込んだ遊び心のあふれる通奏低音実施によって、どんなに面白い音楽になっているか。それはまるで一つひとつの楽章がおとぎ話の1ページででもあるかような、実に楽しい世界をつくりあげているのです。

 ルイエをご担当いただいている森好美さんの、原曲の魅力を余すところなく引き出すような音楽音楽した実施も見事ですが、きゃっつさんの個性的な通奏低音実施もまた、「音を楽しむ」ものである音楽において、本当に真摯な取り組みであり、その成果はすばらしいものです。

 シックハルトという、ある意味では「一度は忘れられていた」作曲家を現代によみがえらせるのに、きっときゃっつさんのお力を得た私たちの提案が役に立てるのではないか、と私たちは期待しています。


★シックハルトの存在価値★

 と言っても、シックハルトのソナタが、プロ奏者のみなさんのステージで取り上げられるようなことは、今後もあまりないでしょう。私たちが目指しているのはそんなことではないし、そもそも、シックハルトのソナタはそんなことのためにある曲ではないのです。これはアマチュア奏者が演奏して楽しむのための音楽です。そして、そこにおいては、本当に楽しく愉快な作品として、俄然、光輝いてきます。

 そう、シックハルトがバッハやヘンデルに匹敵するほど偉いかどうかなど、実は私たちにとってはどうでもよいことなのです。彼の作品もまた、演奏して楽しむ私たちにとっては、バッハやヘンデルの作品と同様に楽しい、存在価値のある作品だということ。それで十分だし、シックハルトもきっと、それを最高の名誉だと感じて心から喜んでくれることでしょう。


リコーダーJPから出版のあるシックハルト作品

「24のソナタ 作品30」より)
ソナタ 1番 ハ長調
ソナタ 2番 ハ短調
ソナタ 3番 変ニ長調 
ソナタ 4番 嬰ハ短調 
ソナタ 5番 ニ長調
ソナタ 6番 ニ短調
ソナタ 7番 変ホ長調
ソナタ 8番 変ホ短調 
ソナタ 9番 ホ長調
ソナタ 10番 ホ短調
ソナタ 11番 ヘ長調
ソナタ 12番 ヘ短調
ソナタ 13番 嬰ヘ長調
ソナタ 14番 嬰ヘ短調
ソナタ 15番 ト長調
ソナタ 16番 ト短調
ソナタ 17番 変イ長調
ソナタ 18番 変イ短調
ソナタ 19番 イ長調

教本「リコーダーの原理」

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