クラシック曲伴奏制作の舞台裏



皆さんにお届けしているクラシック曲の伴奏を、リコーダーJPがどんなふうに作っているか、その舞台裏をちょっとご紹介します。


■通奏低音の楽譜

 よくご存知のかたも多いと思うのですが、バロック時代のリコーダー曲の楽譜というのは、リコーダーのパートと、チェンバロの「左手」で弾く低い音が書いてあるだけで、チェンバロの右手で弾く音(このほうがずっと多いわけですが・・・)は、何も書かれていないのです。そのかわりに、今日で言う「コードネーム」に当たるような、和音を示す「数字」が「ヒント」として書いてあります。(それで、これを「数字付き低音」などといいます。)

 チェンバロ奏者は、そういう楽譜をもとに、右手の弾き方を自分で考えて演奏するのです。

 ちょっと実例をごらんいただきましょう。

 これは、テレマン作曲・ソナタハ長調(「音楽の練習帳」所収)の第1楽章の後半の冒頭です。

 ※音を聞いてみる

 数字が書いていない音符もありますね。これらは、「それをベース音とする基本形3和音にする」という意味であるのが普通ですが、「音符そのものを和声上無視する(経過音とみなす)」とか、「数字の書き忘れ(書かなくてもわかるだろうと考えて書かなかった)とみなす」などと、いろんな解釈の可能性があります。

※上の楽譜例では最初のソは明白に「これをベースとする3和音」が意図され、次のソもそうですが、4拍目のファ#や2小節目最後のレは、「書かなくても(直前の音符と同じだと)わかるだろうと考えて書かなかった」のだと考えられます。)

 これを、リコーダーJPの伴奏CDでは、こんなふうに弾くことにしました。(実施者:石田誠司)

 ※音を聞いてみる

 このように、作曲者が残した「数字付き低音」をもとに、実際に弾ける音符に直すことを、「通奏低音の実施(リアライゼーション)」といいます。

 リコーダーJPでは、通奏低音の実施を独自に行って、CDによる伴奏でアマチュア奏者が楽しむ、という目的に合致した伴奏となるように努力しています。


■市販譜にも実施は載っているが・・・

 もっとも、市販の楽譜には、たいがい、通奏低音を実施した楽譜がついています。

 しかし、それらは、多くの場合、

●右手がリコーダーと同じ音を弾き過ぎる

●右手が高い音域を弾きすぎる(リコーダーの音と交錯するような音域で弾き過ぎる)

●標準的なものを目指す結果、面白みのない無難な解釈に終始している

●ひどい場合は、最低限のかっこうをつけただけに終わっている

など、いろいろな問題が含まれている場合が多いのです。楽譜出版社によって(つまりは通奏低音実施を担当した人によって)、その出来にはずいぶん開きがあり、申しわけ程度に形ばかりの実施を載せているだけの出版社もあります。

 逆に、上記いずれの点においてもなかなかすぐれた、よい実施を掲載している楽譜も、もちろんあります。そういうものからは、私たちもいろいろ学ばせていただいています。しかし、それでも、りコーダーJPが目標とするところにピッタリ合致するかといえば、どんなにすぐれた市販譜の実施でも、やはりどうしても違う・・・ということになるのです。

 そこで、リコーダーJPは、オリジナルの「現代のアマチュアリコーダー奏者のための通奏低音実施」をめざすことにしました。上記のようなことに気をつけるだけでなく、さらに、

●CDの伴奏に合わせて演奏していただくという事情に十分な配慮を行うこと

●現代感覚にマッチする、楽しい積極的な実施をめざすこと

を、通奏低音実施にあたっての方針としています。



■通奏低音実施者の個性

 「現代感覚にマッチする、楽しい積極的な実施」・・・言葉で言うのは簡単ですが、実際には、これはとても高度ないとなみです。音楽的能力が不足してはもちろん話になりません(たとえば「フーガ」にしなければならない楽章もあります。フーガがきちんと書ける能力がなければ実施はできないのです)し、さらに、音符の組み合わせの中に新しい創造的な表現内容を盛り込めなければならないのです。

 こういうことを日々やっているのは、どういう人でしょうか。誰がこういう仕事にいちばん向いているでしょうか。

 そう、それは作曲家たちではないか?

 そこで、リコーダーJPでは、作曲家が通奏低音実施を担当しています。

 作曲家というのはそれぞれ個性的な音楽家です。個性的な音楽性を持つ作曲家が、自分の音楽性を発揮し、自分のカラーを生かしながら実施を行って行くこと。それによってのみ、創造的な価値のある「通奏低音実施」が行える。

 私たちはそう考えます。

※2005年5月現在、通奏低音実施を担当している作曲家は、

  森 好美(ルイエなど)
  きゃっつ(シックハルトなど)
  松崎泰治(マルチェロなど)
  高橋たかね(ヴェラチーニなど)
  田淵宏幸(バルサンティーなど)
  石田誠司(ヘンデル・テレマン・サンマルティーニなど)

  の6名です。




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