■解題(ペジブルのデュオソナタ)■
17世紀末から18世紀初めにかけて、イギリスでは紳士たちの間でアルトリコーダーが大流行しました。ジャック・ペジブル(ジェームズ・ペジブル)は、その立役者だったと目される人物で、写本で残っている独奏ソナタは、はなやかな技巧を盛り込み複雑な転調を駆使する曲が目立ちます。
対して無伴奏二重奏ソナタでは、アマチュア愛好家が楽しめるように比較的易しく書かれた曲が多くなっています。
本作は、1700年ごろオランダのRogerから出版された「2本のアルトリコーダーのための14のソナタ (Quatorse Sonates a 2 Flustes)」という曲集に、フィンガーの6曲・コートヴィルの6曲とともに収録された2曲のソナタうちの1曲です。
■解説(ト短調・Roger版「14のソナタ」第14番)■
5楽章から成っていますが、緩・急・緩・急・緩と並んでいるのは、たいへん珍しい構成です。
第1楽章はアダージョ(ゆっくりと)、2分の2拍子です。第1リコーダーが示した主題を第2リコーダーが同度で模倣して始まり、以後も第2リコーダーが第1リコーダーを同度で模倣する気配を見せる場面がいくつかあって、曲の節目になっています。たいへん美しい楽章です。
第2楽章はポコ・ラルゴ(やや広々と)、4分の3拍子です。ここでも第2リコーダーが第1リコーダーを模倣する気配をみせる場面がたくさんありますが、同度ではない箇所が多くなっています。最初のほうはやさしく演奏できるのですが、途中から音符が細かくなったり半音階的な(したがって臨時記号の多い)進行になったりしますので、速いテンポで始めてしまうと後で泡を食います。
第3楽章は再びアダージョで、4分の4拍子です。同度のカノンで音楽が進み、最後は少し崩れますが、ほとんど全編がカノンとして書かれています。
第4楽章はプレスト(速く)と指定され、4分の3拍子ですが、ほぼ「1拍子」のように、1小節を1拍と感じるスピード感の音楽です。2人のうち一方が付点二分音符(1小節にひとつの音)で音階的に進むあいだ、他方は忙しく八分音符で動くという趣向で始まります。ずっとめまぐるしい動きで進んでいき、最後に突如四分音符を中心とする「3拍子ノリ」の音楽になるのが独特。
第5楽章はまたもアダージョで、4分の4拍子です。声をそろえて(つまり同一リズムで動きながら)始まり、短いかけあいがあって、すぐに収束になります。たった8小節しかない「おまけ」のような楽章で、「蛇足では」とみる向きもあると思いますが、演奏してみると、なるほど意外にこれのおかげで座りがいいのかな?という気もしてきます。
※ 演奏例がお聴きいただけます
■リコーダーによる演奏
第1楽章 (B−2)
第2楽章 (C−1)
第3楽章 (B−2)
第4楽章 (C−1)
第5楽章 (B−2)
※カッコ内の表記は指回り難度です
※リコーダー演奏: 武藤哲也