■カノンによるソナタ■
テレマンの「カノンによるソナタ」は、彼の後半生にあたる「ハンブルグ時代」の作品。6曲から成っている無伴奏のデュエット集で、1737年、パリで作品演奏会を催して大成功をおさめた50台なかばのテレマンが、すかさず翌年にパリで出版したのがこの曲集でした。
楽器としてはヴァイオリンまたはフラウト・トラヴェルソが指定されていますが、当時、トラヴェルソ用の曲を3度ぐらい高く移調してリコーダーで演奏するのはごく普通のことで、「そうしたらいいよ」というのは当時の出版譜にも書かれているそうです。ですから、テレマンとすればリコーダーで演奏されることは当然想定して書いていたとみていいでしょう。
それにしても、ソナタ全曲を完全なカノン(1小節など決まった拍数だけ遅れてずれて他のパートが入ってくる楽曲)で構成するアイディアといい、また、できあがった曲のおもしろさといい、いやはや、「さすがはテレマン」と言うしかありません。
曲はパリで出版されているだけに、垢抜けた優美さ、気の利いたはなやかさをもち、すみずみまで魅力にあふれています。繊細な歌いかた、おどけたようなリズム感、重々しい表情、きっぱりした表情など、音楽的にも多種多様な表現がつぎつぎと繰り出され、演奏する上で工夫しがいのある曲になっているのも特長でしょう。そのうえ、もちろん第1リコーダーを演奏したときの「追いかけられる楽しさ」、第2リコーダーを演奏したときの「追いかける楽しさ」という、カノンならではの面白さもたっぷり味わえます。音楽ファンのために、こんな楽しい作品を残してくれたテレマンは、やはり「家庭音楽の大家」の名にふさわしいですね。
■第3番 各楽章について■
■第1楽章
ヴィヴァーチェ(生きいきと)と指定された4分の4拍子の曲です。ニ短調ですが、深刻さや強い悲しみはなく、むしろ軽くおどけたような感じ、楽しい感じさえしてくる不思議な音楽です。演奏するさいには、弱起になっているのが少し感じにくいかも知れません。
■第2楽章
8分の12拍子。ソアーヴェというめずらしい発想記号で、これは「静かに」とか「柔らかに」「愛らしく」といった意味だそうです。途中、鳥の鳴き声のようなトリル音型が印象的。
■第3楽章
アレグロ・アッサイ(きわめて快活に)と指定された8分の3拍子の曲で、後年ベートーヴェンなどが愛した「スケルツォ」のような速い3拍子です。これも第1楽章の雰囲気を引き継いだ軽妙快活な味の曲で、深刻さは微塵もありません。途中は長調に明るみ、伸びやかに歌います。
※ 演奏例がお聴きいただけます
■リコーダーによる演奏
第1楽章
第2楽章
第3楽章
※リコーダー演奏: 早川廣志