管楽器を演奏するにあたって、呼吸法は重要な役割を果たしています。呼吸法については、「その9」の「ブレス」でも少し取り上げられていましたが、もう少しいろいろ考えてみたいと思います。
■ 胸式呼吸と腹式呼吸
人が息をしている状態を観察すると、二通りのしかたがあることがわかります。一つは、主に胸や肩が動いている場合、もう一つはお腹が動いている場合です。
人間の肺に筋肉はありません。肺の回りには12対の肋骨が取り囲んでいますが、その肋骨を動かす筋肉によって肺を伸び縮みさせます。少し垂れ下がっている肋骨を上に持ち上げることで、肺が入っている胸腔を広げることが出来、下げることで胸腔を狭くします。この息の仕方が胸式呼吸です。
肺の下には、お腹の中にある臓器をさえぎる横隔膜と呼ばれる膜があります。この横隔膜を動かすのは腹筋群の働きによります。横隔膜の上下運動によって行われる呼吸が腹式呼吸です。
実際に息をしている場合、それぞれが単独で働くことはなく、互いにかかわりを持っています。その比率が多いか少ないかで胸式と言ったり腹式と言ったりしているのです。
■ 腹式呼吸が良いと言われるのはなぜ?
胸式呼吸は吸う力が強く働きますが、吐くときには自動的で力を意識的に調節しにくくなっています。たとえば、ゴムひもを伸ばして離すと瞬間的に縮んで戻ります。胸式呼吸はこのゴムひもの動きに似ています。
一方腹式呼吸では、吐くときの力が強く働き、意識的にも吐く能力を自分で調節しやすいのです。吐くときは、腹筋を収縮させて横隔膜を能動的に上げます。では、吸うときはどうなのでしょうか?吸うときは横隔膜が収縮してお腹側に能動的に下げます。
このように、腹式呼吸は吸うときも吐くときも能動的に調節が出来ます。したがって、息の安定性、持続性、変化性のいずれの場合も腹式呼吸のほうが演奏に向いているということになります。
■ 腹式呼吸は吸ったときにお腹がふくらむ?
腹式呼吸をよく観察してみると、ある部分がよく動いています。胸からお腹を、1.乳首から上(上胸囲)2.乳首からみぞおち(下胸囲)3.みぞおちからおへそ(上腹囲)4.おへそから下(下腹囲)の4つの部分に分けてみます。
もっとも典型的な場合は、下胸囲と上腹囲の部分が前方や側方に突き出したり引っ込んだりします。上胸囲と下腹囲はほとんど動きません。ただし、筋肉の付き方の個人差により下腹囲が一緒に動く場合もあります。
しかし、吸ったときに下胸囲と上腹囲が引っ込む腹式呼吸があります。胸式呼吸との違いは、息を吸ってへこんだ状態から息を吐いたとき、さらにお腹が引っ込めば腹式です。お腹の前方をふくらませたり引っ込めたりするだけでなく、左右や後方の筋も鍛えて総合的に横隔膜を支えることが大切なわけですが、この腹式呼吸は、背中の筋肉(後背筋)を鍛えます。
何かに驚いて「アッ!」と息をのむときの様子を想像してみて下さい。この時の息の吸い方は、背中の後ろの方をめがけて一気に吸い込む感じがするでしょう。この吸い方に慣れてくると、最初は背筋を使うのでお腹が引っ込みますが、そのあとお腹がふくらんできます。
|
|
|
|
■ 息を吐くことから覚えよう
これから腹式呼吸を覚えようとする人や、人に教える立場の人は、息の吐き方から覚えると良いそうです。
なぜならば、管楽器を演奏する時は、息を吐いている状態だからです。吸うのはブレスをするときだけで、瞬間的です。圧倒的に息を 吐いている時間の方が長いのです。いかに上手に息を吐くかということに、まず意識を集中させます。
もう一つの理由は、吐き方から練習したほうが早く会得できるという事実に基づいています。理屈のわかりにくい、それもぜんそくを持った子どもたちに、歌うという音楽療法を行って自然に腹式呼吸法を会得させているという成果があります。
腹式呼吸の具体的な練習法については、いろいろなところで紹介されておりますので、自分に合ったものを取拾選択すると良いでしょう。
|