作曲家紹介コーナー 近藤浩平さん
●プロフィール● 1965年宝塚市生まれ。関西学院大学文学部美学科にて畑道也氏に音楽学を学ぶ。 1999年1月「ピアノデュオ作品による第5回国際作曲コンクール」入選 主要作品:「青と緑の稜線」(ピアノデュオ 2台4手)、「3つの木の組曲」(ピアノ連弾)、 劇音楽「島」(電子音楽) ホームページ「山の作曲家、近藤浩平」 http://koheikondo.com/ |
リコーダー用作品リスト | ||
曲 名 | 種 別 | 段 階 |
/山小屋の4つの窓 1/ | /アルト独奏 | /第2段階 |
/山小屋の4つの窓 2 | /アルト独奏 | /第5段階 |
/山小屋の4つの窓 3 | /アルト独奏 | /第5段階 |
/山小屋の4つの窓 4 | /アルト独奏 | /第5段階 |
/山羊のいる風景 | /アルト二重奏/ | /第6段階・第6段階/ |
/吹き流し | /アルト二重奏 | /第1段階・第6段階 |
海の笛・山の笛 | リコーダー四重奏(AATB) | 中〜上級 |
○○近藤浩平先生 直撃いんたびゅー○○
はじめから現代音楽
RJP:音楽との出会いみたいなものをお伺いしたいんですけど。
近藤:まず家にピアノがありました。それと、家が喫茶店でしたので、クラシックのレコードも少しあったんですが、レコードのカタログを見ると、そういう家にあるようなレコードの作曲家とちがう、教科書にも載ってないようなあやしげな現代曲の作曲家が載ってたんです。
RJP:あやしげな、ですか(笑)
近藤:ええ、それでそういうのをいくつか聴いてみると、これはとてもスケールの大きな表現のできる自由な世界だと思って、好きになったんですね。
RJP:なるほど。じゃぁ最初から現代音楽で音楽に出会われたんですね。
近藤:ええ。名曲解説の本なんかでも、最後のほうにはペンデレツキとかシュトックハウゼンとか、あと日本の現代作曲家なんかが載ってるでしょう。そういうのをレコードを買ってきて聴いたりしてました。
RJP:それはいつごろのことですか。
近藤:中学1年のときです。
RJP:作曲も始められましたか。
近藤:ええ、ピアノを使って、12音音列を作ったりしました。はじから無調の曲でした。ピアノで遊ぶときも、クラスター叩いたり、ペダル踏んでピアノの中で叫んで響きを聴いたりね(笑)
RJP:うーん、生まれながらの現代音楽作曲家だったんですねぇ(笑)
習うより、独学で
近藤:その後、クラシックも聴くようになりました。最初買ったのがリヒャルトシュトラウスだったと思います。あとストランビンスキー、ホルスト、シェーンベルクとかね。
RJP:現代音楽からクラシックへさかのぼって行かれたんですね・・・
近藤:ええ。それで曲もずっと書いていたんですが、高2のころにはいちおうオーケストラ曲を書くようになっていました。でも家族とか友達とか周囲の人には、何をやってるのかさっぱり理解できなかったみたいですね。
RJP:何かそのころのエピソードなんかありますか。
近藤:文部省がやっていた「全国学芸科学コンクール」にオーケストラ曲を応募して高校生の部で銀賞を取りました。チェレスタのクラスターとグリッサンドを駆使し、5.5拍子と7.5拍子の交替する曲でした。
RJP:近藤さんは今でもコンクールによく応募されて受賞経験もおありですが、では、それが初入賞ですね。
近藤:その後、落選を重ねています。でも部活動なんかはずっと音楽には関係なく、陸上部でした。
RJP:陸上のこともサイトに書かれてますよね。でも作曲家になろうというのは、もう思ってらっしゃったんでしょう。
近藤:ええ、それは中学2年のころには決心してました。
RJP:なるほど。
近藤:でも、作曲をはじめ音楽を「習う」という気持ちは持たなかったんですね。学校なんかで習うより一流作曲家の作品の譜面見るほうがずっと勉強になる、と思ってましたし
RJP:ははは、それ・・・書いちゃっていいんですね?(笑)
近藤:いいですよ(笑) 実際、音大の先生方のことは「知らないマイナー作曲家」としか思っていなかった(笑)
RJP:(笑)でも、大学は、美学科で音楽の研究をされたんですよね。
近藤:ええ、これはちょっと音楽を広い視野で見たい、ということで。でも、要するに関西学院高校から大学に進むとき、いちばん楽に行けるのが文学部で、というのもありました(笑)
ホルストを研究
RJP:大学で学ばれての成果というとどんなことでしたか。
近藤:うーん、大学ではね、4年間、一つの論文をずっと書いていたんです。
RJP:4年間ずっとですか。それはテーマは何だったんですか。
近藤:ホルストについて、作品をアナリーゼして、・・・「ホルストの弟子」状態ですね(笑)
RJP:ははぁ・・・。そう言えばホルストについては近藤さんはサイトでも大きく取り上げておいでですし、雑誌に執筆されたこともありますね。ホルストというと、組曲「惑星」が有名ですが、近藤さんは、「惑星」だけの人と思われているのが残念だとおっしゃっていますよね。ホルストはどういう作曲家なんでしょうか。
近藤:ホルストは、現代音楽の主流のところであまり話題になりません。専門家・批評家などもあまり取り上げませんし、音楽ファンも「惑星」しか知らない人が多いんですね。
RJP:ちょっと誤解されている作曲家だということになるんでしょうか。
近藤:ええ、CDなんかも少ないですし、とくに国内盤は少ないですね。
RJP:ええ・・・。
近藤:ホルストは、東洋哲学の影響を受けた人です。それで、ロマン的な、個人的感情の表現を行う音楽とも違う、また古典的な形式美を追求した音楽とも違う音楽を書いた人です。でも、じゃぁどういう内容の音楽なのかと、思想的な面に踏み込むと、非常に難しいんですけどね。
RJP:ははぁ・・・。
近藤:それで、彼は音そのものの生命感への信頼感が強い作曲家だと思います。東洋思想やアフリカ音楽に親しむことで一度西洋近代の世界から抜け出て外のものを取り込んでからまた帰っていった人です。だからドイツ的な、形式やテーマの展開によりかかって音楽を構成するような発想からも自由です。ホルストが音楽の「突破口」を示しているように私は思うのです。
RJP:非常に高く評価してらっしゃるのですね。
近藤:ええ、ホルストは、いつも技法的には時代の最先端のところを行ってまして、つねに自分の語法に忠実に作曲しています。それでいて、たとえば吹奏楽作品など、学生ブラスバンドにも人気がある。よく現代の作曲家の中には、自分の語法で書いた自分用の作品と、商業目的の作品とでまるきり違う作風を用いる人がいますが、ホルストはそういうことがないんです。
RJP:二枚舌を使わないんですね。
近藤:ええ。その点では、自分もホルストと同様、いつも自分の語法に忠実でありたいと思っています。
他の仕事も持ちながら
RJP:近藤さんは、他にお仕事もお持ちになりながら作曲活動を続けていらっしゃるわけですが。そうやって立派な作品を残した作曲家は現代には少なくないですよね。
近藤:ええ、これはね、まず、自分が書きたい作品を作曲していただけでは食えない。そこで、自分のための作曲と、食べるための作曲や編曲を両方やる、という方法もあるわけですが、食べるための作曲をやるよりもサラリーマンの時給のほうがはるかに多いんです。
RJP:なるほど。
近藤:だから、サラリーマンをやってたほうが、自分の書きたい曲をつくるのに使える時間は多くなるんですよ。
RJP:近藤さんは本当に精力的に作曲してらっしゃいますもんねぇ。とてもサラリーマンもやってらっしゃるとは思えないほどです。
近藤:週末には山に登ったりもしてますからね(笑)
RJP:副業作曲家でたくさん名作を残した人というとチャールズ・アイブズとかいますよね。
近藤:ええ、アイブズは社長さんで、私はヒラ社員ですけどね(笑)
RJP:でもほんとにお忙しいなか、あらゆる音楽もよく聴いてらっしゃって、ちょっと不思議なくらいなんですけど。
近藤:たしかにいろんなものを聴きますね。クラシックが3分の1、現代音楽が3分の1、あとの3分の1はポップスや民族音楽です。
RJP:作曲の筆もとても速いですよね。
近藤:昼間の仕事を猛スピードでやってますからね。その勢いで作曲も早くなるのかも知れません(笑)
RJP:すごくテンションの高い生き方をしてらっしゃるわけですね・・・
近藤:ええ。でもそれで早死にしちゃうと困りますから気をつけないと。
躍進する山の作曲家
RJP:今年は近藤さんの曲の演奏予定がとても多いですよねぇ。
近藤:ええ、数年前から自分の作品レベルがとても高くなったのを感じます。先生に教わっていれば、一定レベルまで行くのは早いですから、教わってればもっと早くここまで来れたんでしょうが・・・。私の場合は20数年もかかってしまったんですね。
RJP:でもこれだけ作品の演奏予定が多い現代作曲家はザラにはいないでしょう。
近藤:リコーダーJPのコンサートで回数を稼いでいますが・・・。これからも、年々、倍々ゲームで演奏機会を増やしていって、定年のころには印税で食えるようになっている予定です(笑)
RJP:なるほど(笑)
近藤:海外での演奏の機会には、旅費向こう持ちで演奏に立会いに行ってね。それで世界中が旅行できる。できれば近くに山のあるところがいいですねぇ。リハーサルのあいまに登山ができるから(笑)
RJP:それはいいですね(笑) そう言えば近藤さんは「山の作曲家」とおっしゃってますね。
近藤:ええ、これは、ヨーロッパのクラシックの作曲家たちが、都市のハイソサエティーの中で活動してましたから、彼らは「町の作曲家」であると。私は、そういうバックグラウンドではない人間ですから、それでいて、かれらに匹敵する高度な音楽をつくるんだ、という意思を、この言い方にこめているわけです。ヴォーン・ウィリアムズとかチャールズ・アイヴズなんかも同じだと思うんですが。
RJP:なるほど、「町の作曲家」に対する概念なんですか。
近藤:ええ、もちろん、例の「山の音楽家」という歌にもひっかけてあるんですけどね(笑)
(2002.6.14).
〜近藤浩平さんについて〜
音楽大学で学ばないとすぐれた作曲家になれないわけではない。それどころか、私などは個人的には、大学に職を得て安心し、人々に真に愛されることを本当にめざした誠実な作品を書かなくなってしまっているような、閉塞状況に安住する「作曲家」たちよりも、近藤さんのように、こつこつと誠実に作品制作を行っている作曲家のほうを、ずっと高く評価している。
近藤さんは、専門的に先生についての勉強をされるだけではなく、古今東西のあらゆる音楽に耳を傾け、実に幅広く自分の耳で学び続け考え続けてこられた、知性あふれる作曲家である。その真摯な姿勢は、多くの現代作曲家たちにとって学ぶべきものだろう。そして、その作品は、お聴きのように、現代の作家として自分の語法に忠実に誠心誠意書かれたものであり、魅惑的な響きといいしっかりした構成といい、本当に内容豊富な傑作ぞろいである。
リコーダーJPディレクター 石田誠司