ハイニヘン「新しい通奏低音奏法(1711年)」より

★ハイニヘン先生と通奏低音を学ぼう★

第4章検討箇所       第1章検討   第2章検討   第3章検討           第5章検討

§5(譜例4-1) ハ長調

(1)3小節1拍め
 原著の図では低音数字4にスラッシュが付されている(ここでは、多くの出版社の楽譜の場合と同様、これを4+と表現した)。このスラッシュは、低音数字「4」に対応する音として、低音dの4度上の「g」でなく、「gis」を演奏すべきことを意味するものだが、原典の本文にはこの点についての説明はないように思われる。
 しかし、訳書においては訳注などの形で解説があるべきだし、訳書に掲げる楽譜において「4+」等でなく単に「4」と印刷されているのでは、誤りを教えることになるのではないか。
 なお、この点は第4章の図版において一貫した問題となっている。

(2)4小節2拍め
 原譜で脱落している低音数字「♯」を訳書が補ったのは妥当。

(3)5小節3拍め
 この低音数字「5♭」は、「6/5」とあるべきところを原譜で誤植したものではないか。ハイニヘンの与えた右手音は「6/5」に対応するものとなっている。(減三和音を「5♭」により指定したものと解する余地もあるかも知れないが、初学者を対象とする書物であるにもかかわらず原著にその点に関する説明がないことからも、また原著者が右手のために示した音からも、そうとは考えにくい。)
§6(譜例4-2) ハ長調

(1)1小節2拍めから3拍め
 原譜ではタイのような記号がないが、7度音の準備を示す意味で訳書が補ったのは妥当。

(2)2小節1拍めから2拍め
 原譜にはタイのような記号がないが、9度音の準備を示す意味で訳書が補ったのは妥当。

(3)3小節1拍め
 低音数字「4」は、「4+」等とすべき。 4-1へのコメント(1)参照。

(4)3小節2拍めから3拍め
 原譜ではタイのような記号がないが、7度音の準備を示す意味で訳書が補ったのは妥当。

(5)3小節3拍め裏拍
 原著では明らかにg音が意図されているが、同じ小節内の1拍目に臨時記号♯によってgisが置かれているにもかかわらず、原譜・訳書ともg音に臨時記号を付していない。バロック時代の一般的記譜法によれば、これでも3拍目裏拍の「ソ」はgisでなくgと受け取られるのが通例だが、現代の記譜ルールによれば、もちろんナチュラルを付さない限りgisと解される。「18世紀の著作中の楽譜なのだから、当然18世紀の読譜ルールによるのだ」ということなのならば、その点を注意しておかれるべきであったろう。

(6)5小節2拍めから3拍め
 c音に対するタイは上記(1)と同様妥当な補いだが、a音に対するタイは不要(不適切)ではないか。

(7)5小節3拍め
 5♭でなく6/5であろう。譜例4-1へのコメント(3)参照。

(8)5小節3拍めから4拍め
 原譜ではタイのような記号がないが、4度音の準備を示す意味で訳書が補ったのは妥当。

(9)7小節1拍め
 低音数字が原譜では 6/5♭と見えるが、訳書が6/5/♭と訂正したのは妥当。

(10)10小節3拍めから4拍め
 原譜ではタイのような記号がないが、4度音の準備を示す意味で訳書が補ったのは妥当。
§6(譜例4-2) ハ長調

(11)9小節1拍め
 右手音、原譜のc/a/eを訳書はc/a/fと変更しているが、変更は不要であろう。
§7(譜例4-3) ヘ長調

 ※この譜例は、原典では欠落しているので、譜例4-4の低音段と照合した。

(1)3小節1拍め
 低音数字「4」を「4+」等に。譜例4-1へのコメント (1)参照。

(2)3小節3拍め
 原譜の低音数字ナチュラルを、あえて♯に変更すべき理由は思い当たらない。

(3)5小節1拍め
 原譜にない低音数字♯を訳書が補ったのは妥当。

(4)5小節3拍め
 低音数字は6/5であろう。譜例4-1へのコメント(3)を参照。

(5)13小節3拍め
 原譜では低音数字 6 にスラッシュがあるように見えるが、訳書が 6 に修正したのは妥当。

(6)14小節3拍め
 上記(2)に同じ。

(7)25小節
 原譜のd音は誤植であろう。訳書がfに修正したのは妥当。

(8)30小節3拍め
 原譜にない低音数字6を訳書が補ったのは妥当。

(9)32小節4拍め
 上記(2)に同じ。

(10)33小節2拍め
 上記(2)に同じ。
§8(譜例4-4) ヘ長調

(1)1小節2拍め裏拍から3拍め
 原譜にないタイを訳書が補ったのは妥当。譜例4-2へのコメント(1)参照。

(2)2小節1拍め裏拍から2拍め
 原譜ではcの音にタイが付けられているが、訳書がeへのタイに修正したのは妥当。

(3)2小節2拍め
 原譜の右手音c/a/eを訳書がa/f/eと修正したのは妥当。

(4)3小節1拍め
 低音数字は6/4+/2等とすべき。4-1へのコメント(1)参照。

(5)3小節2拍め裏拍から3拍め
 タイの補いは妥当。4-2へのコメント(1)参照。

(6)4小節1拍め表拍
 原譜・訳本共に右手音「シ」に臨時記号ナチュラルが必要なところ、脱落している。

(7)4小節1拍め裏拍
 右手「シ」に訳書がナチュラルを補ったのは妥当。

(8)4小節2拍め
 原譜で右手音「ラ」に♯が付されているのを訳書が取り去ったのは妥当。

(9)4小節2拍め3拍め間
 原譜で誤植された小節線を訳書が省いたのは妥当。

(10)4小節3拍め
 現代記譜ルールならば右手音「ソ」にナチュラルが必要。譜例4-2へのコメント (5)参照。

(11)5小節1拍め裏拍
 原譜にない低音数字♯を訳書が補ったのは妥当。

(12)5小節2拍め裏拍から3拍め
 右手音fのタイを補ったのは妥当。(7度音準備を示す)

(13)5小節3拍め
 低音数字、正しくは6/5であろう。譜例4-1へのコメント(3)参照

(14)6小節3拍めから4拍め
 原譜の右手音にないd音を訳書が補ったのは妥当であろう。

(15)10小節1拍め
 原譜に従い右手音b/f/dとするなら低音数字として 6 を補うべき。(または右手音a/f/d とする選択もあろうか)
§8(譜例4-4) ヘ長調

(16)2小節3拍め
 原譜では低音数字6にスラッシュがあるのを訳書が単に6 としたのは妥当。(譜例4-3の(4)に同じ)


(17)5小節3拍め
 原譜ではd/g/e音になっているのを訳書は正しく修正している。

(18)13小節1拍めから2拍め
 訳書が4の準備をあらわすタイを補ったのは妥当。

(19)19小節3拍め
 訳書の右手音c/g/aは誤植であろう。原譜のc/g/cで問題ない。

(20)20小節4拍め
 原譜の低音数字ナチュラルをあえて♯に変更する必要は思い当たらない。(譜例4-3(2)に同じ) 

(21)22小節4拍め
 右手音「シ」に、現代記譜ルールならば臨時記号♭が必要。

(22)23小節1拍め
 訳書ではここで「シ」に♭が付されているが、必要なのは上記(21)に述べたように22小節4拍目の「シ」である。
§10(譜例4-5) ト長調

(1)3小節1拍め
 低音数字は6/4+/2等とすべき。4-1へのコメント(1)参照。

(2)4小節2拍め
 低音数字♯を訳書が補ったのは妥当。

(3)5小節1拍め
 上記(2)と同様、訳書の低音数字♯の補いは妥当。

(4)5小節3拍め
 低音数次は6/5であろう。譜例4-1へのコメント (3)参照。

(5)7小節4拍め
 「ファ」の音に対し原譜が付した♭をナチュラルに変更したのは現代譜ルールに従えば妥当。(18世紀の記譜法ではしばしば♭が「半音下げる」意味で使われたので、原譜が間違いなのではないが)

(6)9小節1拍めと2拍め
 訳書では原譜1拍めの低音数字♯を2拍目裏拍に移してしまっているが、これは原譜通りの位置が正しいであろう。
§11(譜例4-6) ト長調

(1)1小節3拍め
 右手音が原譜ではa/e/c、訳書ではa/g/cとなっているが、いずれも低音との間で平行8度を生じている。原著者がa/g/eとする意図だったのを印刷時に誤植したのではないか。

(2)2小節1拍め裏拍から2拍め
 訳書が9度音の準備を示すタイを補ったのは妥当。

(3)3小節1拍め
 低音数字は6/4+/2等とすべき。譜例4-1へのコメント(1)参照。

(4)3小節2拍め
 原譜にない低音数字6を訳書が補ったのは妥当。

(5)4小節2拍め
 訳書が低音数字♯を補ったのは妥当。

(6)4小節3拍め表拍
 原譜は右手音g/e/hとしているが、低音数字9に照らせば訳書がg/fis/hとしたのは妥当。

(7)4小節3拍め裏拍
 現代記譜ルールならば右手音cとaに臨時記号ナチュラルが必要。

(8)5小節1拍め裏拍
 訳書が低音数字♯を補ったのは妥当。

(9)5小節2拍めから3拍目
 原譜にはタイがなく、訳書では2拍目表拍と裏拍のgがタイで結ばれているが、7度音の準備を示す記号として、2拍目裏拍から3拍目表拍のgを結ぶべき。

(10)5小節3拍目
 低音数字、正しくは6/5であろう。譜例4-1へのコメント(3)参照

(11)8小節4拍目
  原譜の四分音符a音にかわり、訳書は誤って四分音符hを置いている。

(12)9小節
 原譜で2拍目に置かれたように見える低音数字(記号)♯を訳書が1拍目に修正したのは妥当。 

(13)10小節3拍めから4拍目
 原譜にはタイがなく、訳書では3拍目表拍と裏拍のgがタイで結ばれているが、4度音の準備を示す記号として、3拍目裏拍から4拍目表拍のgを結ぶべき。
§11(譜例4-6) ト長調

(14)4小節2拍め
原譜の右手音 a/fis/c を訳書がa/fis/dに修正したのは妥当。

(15)4小節3拍め
右手音が原譜ではh/fis/c、訳書ではh/fis/eとあるが、どちらも誤植だろう。h/fis/dぐらいが妥当。

(16)9小節1拍め
原譜の右手音h/g/dを訳書がh/g/eと修正したのは妥当。

(17)9小節2拍め
原譜の右手音h/g/eを訳書がc/g/eと修正したのは妥当。

(18)13小節1拍め
原譜の低音数字「6」を訳書が省いたのは妥当。

(19)13小節2拍めから3拍め
訳書が低音数字「4 3」を補って右手音をそれに合わせて変更したのは、他調の例にならう意味で妥当。(原典も「数字なし」に合わせたリアリゼーションを正しく行っているが)

(20)22小節1拍めから2拍め
原譜にないタイを(7度音の準備を示すために)訳書が補ったのは妥当。

(21)22小節4拍め
 原譜・訳本とも右手音c音に臨時記号がないが、現代譜ルールならばナチュラルが必要。

(22)23小節1拍め
 訳書ではここで右手音にナチュラルが(親切のつもりで?)付されているが、上記(20)にあるように、ぜひ必要なのは22小節4拍めの方である。

(23)23小節1拍め低音
 原譜では低音数字6があるのを訳書では誤って省いてしまっている。(右手の弾き方は「6」が置かれている場合に応じたものになっているので、その意味でもこの低音数字6は省くべきでない。)
§12(譜例4-7) 変ロ長調
   ※原譜の調号 「シ」の♭が欠落している。

(1)1小節2拍め・3拍め
原譜で2拍めが6/5、3拍めが6となっているのを訳書が(逆順にして)修正したのは妥当。

(2)3小節1拍め
低音数字は6/4+/2等とすべき。譜例4-1へのコメント(1)参照。

(3)4小節2拍め
低音数字として訳書が♯を補ったのは妥当。

(4)5小節1拍め
低音数字として訳書が♯を補ったのは妥当。

(5)5小節3拍め
低音数字、正しくは6/5であろう。譜例4-1へのコメント(3)参照

(6)7小節4拍め
低音数字6の位置を訳書が修正したのは妥当。

(7)8小節2拍め
原譜にない低音数字6を訳書が補ったのは妥当。

(8)21小節2拍め
原譜にない低音数字6を訳書が補ったのは妥当。

(9)27小節2拍め
原譜にない低音数字6を訳書が補ったのは妥当。

(10)30小節3拍め。
原譜にない低音数字6を訳書が補ったのは妥当。
§13(譜例4-8) 変ロ長調

(1)1小節2拍め裏拍から3拍目
原譜にないタイの補いは妥当。(譜例4-2へのコメント(1)に同じ)

(2)2小節1拍め裏拍から2拍め
原譜にないタイの補いは妥当。(譜例4-2へのコメント(2)に同じ)

(3)3小節1拍め
譜例4-1へのコメント(1)と同じ。ただしハイニヘンの原譜では4+/2となっている(他調の例にならうなら6/4+/2となるところ)。したがって訳書が6を補ったのは悪くはない。

(4)3小節3拍め裏拍
現代記譜ルールならば右手音「ファ」にナチュラルが必要。

(5)4小節3拍め裏拍
現代記譜ルールならば右手音「ミ」に♭が必要。

(6)5小節2拍め裏拍から3拍め
右手音gを結ぶタイを訳書が補ったのは不要。(誤りとまでは言えないが、7度音の準備を示す、B音へのタイの意味が不明瞭になる。)

(7)5小節3拍め
低音数字、正しくは6/5であろう。譜例4-1へのコメント(3)参照。また、原譜の右手音b/g/esは明らかに誤りなので、訳書はb/g/eに修正しているが、ここはe(ヘ長調の導音)の低音との重複を避けて、b/g/c等とすべきところであろう。

(8)5小節4拍め
原譜がいろいろとおかしく、訳書楽譜にも問題が多くなった。まず、低音数字は原譜でも訳書でも「4N(ナチュラル)」のように見えるが、「4  N」のように少し離して印刷するほうが良いだろう。このナチュラルに応じて裏拍の右手音は eとなるわけなので、原譜は必要なナチュラルが脱落しており、訳書でも(18世紀ルールでの記譜ならば)脱落になる。訳書で上声部にa音が置かれたのはこの「4」を「6/4」と読み替えた結果かも知れないが、それにしてもそのaが裏拍まで伸びているのはまずい、等々。ここには低音数字や他調例に照らしての修正案を示した。

(9)9小節3拍め
原著訳書とも右手音をc/a/fとしているが、低音のa音と導音の重複となっている。右手a音を省けば回避できる。

(10)9小節4拍め
右手音「シ」に訳書が♭を補ったのは(現代ルールの記譜とする上でならば)妥当。(やはり訳書の記譜方針は、現代ルールによる記譜なのだろうか?)

§13(譜例4-8) 変ロ長調

(11)9小節2拍め
他調の例と和音を揃えるなら右手dのかわりにesだが、原典の誤植なのか著者の意図通りなのか決し難い。

(12)9小節3拍め
右手音、原典のes音を臨時記号ナチュラル追加によりe音としているのは疑問。

(13)10小節1拍め
右手音、原譜のa/f/dを訳書がa/f/cと修正したのは妥当。

(14)13小節2拍めから3拍め
原譜には低音数字43が無く、それに合わせた右手音となっているが、訳書が低音数字43を追加して他調の例に合わせた処理としたのは頷ける。

(15)22小節1拍めから2拍め
原譜・訳書ともに右手音へのタイがない。本書全体の方針に照らせば、7度音の準備を示す記号としてf音にタイがあるべきだろう。

(16)22小節4拍め
現代記譜ルールならば右手音 e に臨時記号♭が必要。
§14(譜例4-9) ニ長調

(1)3小節1拍め
譜例4-1へのコメント(1)に同じ。

(2)3小節3拍め
低音数字7/♯を訳書が補ったのは妥当。

(3)4小節2拍め
低音数字(記号)♯ を訳書が補ったのは妥当。

(4)5小節1拍め
低音数字(記号)♯ を訳書が補ったのは妥当。
 
(5)5小節3拍め
低音数字、正しくは6/5であろう。譜例4-1へのコメント(3)参照。

(6)7小節1拍め
原典・訳書とも低音数字6/5/♭になっている。このような場合にナチュラルの意味を♭で表すのは18世紀の楽譜では普通だが、訳書でこのままを記載するなら、この点につきひとこと解説があるべきではないか。
§15(譜例4-10) ニ長調

(1)1小節1拍目から2拍め表拍
訳書が右手音にdを補ったのは頷ける。2拍め裏拍で原譜右手音d/aを訳書ではd/a/dに変更しているが、他調の例にならって3度音を補い、d/a/fisとするほうが良いのではないか。

(2)1小節2拍め裏拍から3拍め
原譜にないタイを7度準備を示すため訳書が補ったのは妥当。

(3)3小節1拍め
譜例4-1へのコメント(1)に同じ。

(4)3小節3拍め裏拍
現代記譜ルールならば右手音 a に臨時記号ナチュラルが必要。

(5)3小節3拍め裏拍から4拍め表
訳書が7度音準備を示すタイを補ったのは妥当。

(6)4小節3拍め裏拍
現代記譜ルールなら右手音e,gにナチュラルが必要。

(7)5小節2拍め裏拍から3拍め表
訳書が右手音hにタイを追加したのは疑問。(準備を要する音を準備したことを示すd音へのタイの意味が不明になるので)

(8)5小節3拍め
低音数字、正しくは6/5であろう。譜例4-1へのコメント(3)参照。

(9)5小節4拍め
原譜の右手音gに訳書が♯を補いgisとしたのは妥当。

(10)7小節1拍め
原譜で右手最高音(cis)に付されている臨時記号♭をナチュラルに変更したのは(現代記譜ルールによる記譜として)妥当。低音数字の6/5/♭も6/5/ナチュラルとすべきか(あるいは注記する等)。

(11)7小節4拍め
原譜で低音の最初の音「ド」に付されている♭を訳書がナチュラルに変更したのは現代記譜ルールへの対応として妥当。

(12)8小節3拍めから4拍め
原譜にないタイを訳書は3拍目のhに補っているが、準備を要する音を示すタイを補うのならもう半拍後ろである。(つまり3拍目裏拍から4拍目にかけてタイをかける。)

(13)9小節4拍め
現代記譜ルールでは右手音「レ」にナチュラルが必要。

(14)10小節1拍め 
ここで「レ」に(本来は不要な念押しの)ナチュラルを補っているということは、訳書の楽譜は前小節4拍目の「レ」(18世紀の記譜ルールでは明らかにdとなる) をdisだと思っている人(つまり18世紀の記譜ルールに不案内な人)が作った楽譜なのではないかという疑念を生じさせる。

§15(譜例4-10) ニ長調

(15)7小節3拍め
原譜右手音が a/d になっているのは誤植であろうから訳書が a/e/cisへ修正したのは妥当。

(16)12小節2拍め
原譜でh/g/dとなっている右手音を訳書がh/g/eと修正したのは妥当。

(17)15小節1拍めと2拍め
原譜ではfis/d/hとなっている右手音を、訳書が他調の例にならいfis/d/aと修正したのは妥当。

(18)23小節3拍め・4拍め
原踏の右手音fis/d/hは誤植であろう。訳書がfis/d/aと修正したのは妥当。
§17(譜例4-11) イ長調

(1)3小節1拍め
譜例4-1へのコメント(1)と同じ。

(2)3小節3拍め表拍
原譜・訳書とも、低音数字7/♯が付されていないが、他調の例にならって補うべきか。

(3)4小節2拍め
原譜・訳書とも低音数字♯が付されていないが、他調の例にならって補うべきか。

(4)5小節1拍め
低音の3つ目の音cisに訳書が低音数字記号♯を他調の例にならって補ったのは妥当。

(5)5小節3拍め
低音数字、正しくは6/5であろう。譜例4-1へのコメント(3)参照。原譜には数字がない。

(6)6小節4拍め
原譜にない低音数字6を訳書が補ったのは妥当。

(7)7小節1拍め
原譜・訳書とも低音数字が6/5/♭になっている。現代の教則本としては6/5/ナチュラルとすることを考えてみたい。

(8)8小節2拍め
原譜にない低音数字6を訳書が補ったのは妥当。

(9)27小節2拍め
原譜にない低音数字6を訳書が補ったのは妥当。
§18(譜例4-12) イ長調

(1)2小節2拍め裏拍
原譜のfisが、訳書では誤ってGisとなっている。

(2)3小節1拍め
譜例4-1へのコメント(1)に同じ

(3)3小節3拍め表拍
原譜で右手音dに臨時記号♯がついていないのは誤植であろう。訳書もこれを補えていない。低音数字が落ちているが、他調の例にならい、7/♯を(あるいはここでの原著右手音に合わせるなら♯を)補うべきか。

(4)3小節3拍め裏拍
原著訳書とも右手音「ミ」に臨時記号がないが、訳書においては(現代記譜ルールに従う限りは)ナチュラルが必要。

(5)4小節2拍め
低音数字(記号)として♯を補い、右手音「ミ」には臨時記号♯を補うべきところ。

(6)4小節3拍め裏拍
現代記譜ルールによるなら右手音「レ」と「シ」に臨時記号ナチュラルが必要。

(7)4小節4拍め
上記(5)により2拍め「ミ」に♯を付けた場合、現代記譜によるなら右手音「ミ」への臨時記号♯は不要。

(8)5小節1拍め表拍
原譜の右手音a/fis/dを、訳書がa/fis/cisと修正したのは妥当。

(9)5小節1拍め裏拍
原譜では低音数字♯が落ちているが、他調の例にならい♯を補うべきところ。

(10)5小節2拍め裏拍から3拍め表拍
訳書でfisとaをタイで結んでいるが、準備を要する音の準備の意味で用いる記号としてはa音のみにすべき。

(11)5小節3拍め表拍
低音数字、正しくは6/5であろう。譜例4-1へのコメント(3)参照。

(12)5小節3拍め裏拍
右手e音には現代記譜ルールなら臨時記号ナチュラルが必要。

(13)5小節4拍め
右手音、原譜・訳書とも四分音符のa/hとなっているが、aは誤植だろう。fis/hと修正すべきところ。

(14)7小節1拍め表拍
訳書が低音数字を6/5♭としているのは誤植か。原譜通り6/5/♭か、現代譜的に6/5/ナチュラルとすべきところ。

(15)7小節1拍め裏拍
右手音h/gis/eは、表拍の音(h/gis/cis)と同じにすべきところを原著が誤植したのではないかと疑われる。

(16)7小節4拍め
原譜では右手音がb/gis/eとなってしまっており、訳書ではこれをais/g/eと修正しているが、正解はh/g/eであろう。原譜シに対する♭は、右手音「ソ」がgisでなくgであることを示す意図で「ソ」に付すべきところを1段上に誤植してしまったものだろう。

(17)8小節1拍め
訳書では、右手音に原譜にない音aを加えてcis/a/eとしたために、低音との間に平行8度を生じている。

(18)9小節1拍めと2拍め
原譜では右手最低音として1拍目にcis, 2拍目にdが置かれているが、訳書ではこれらの音がない。1拍目はこれでも問題ないだろうが、2拍目にdがないのは3度音欠落となり、非常にまずい。

(19)9小節3拍め表拍
原譜も訳書も右手音がh/gis/eだが、低音と導音の重複を生じている。右手gisを省けば回避できる。

(20)9小節4拍め表拍
現代記譜ルールでは右手音「ラ」に臨時記号ナチュラルが必要。

(21)10小節1拍め
ここで「ラ」に(本来は不要な念押しの)ナチュラルを補っているということは、訳書の楽譜は前小節4拍目の「ラ」(18世紀の記譜ルールでは明らかにaとなる) をaisだと思っている人(つまり18世紀の記譜ルールに不案内な人)が作った楽譜なのではないかという疑念を生じさせる。


§18(譜例4-12) イ長調

(22)2小節3拍め
原譜では右手音がh/fis/dとなっているが、これは和音が違い明らかな誤植なので、訳書ではこれをh/gis/eと修正したが、低音と導音重複を生じた。gisを省けば回避できる。

(23)3小節1拍め
原譜の右手音cis/a/fisを訳書が cis/a/eと修正したのは妥当。

(24)3小節2拍め
原譜の右手音cis/gis/e を、訳書が cis/a/fis と終止したのは妥当。

(25)9小節2拍め
原譜の右手音 a/fis/cis を、訳書が a/fis/d と修正したのは妥当。

(26)22小節2拍め
原譜の右手音 a/fis/cis を、訳書がa/fis/e と修正したのは妥当。
§19(譜例4-13) ホ長調

(1)3小節1拍め
譜例4-1へのコメント(1)に同じ

(2)3小節3拍め表拍
原譜では低音数字が欠落したところへ訳書では7/♯と補っているのは妥当。

(3)4小節2拍め
原譜・訳書とも低音数字がない。他調の例にならって♯を補うべきだろう。

(5)5小節1拍め裏拍
低音数字記号♯を訳書が補ったのは妥当。

(5)5小節3拍め表拍
低音数字、正しくは6/5であろう。譜例4-1へのコメント(3)参照。

(6)7小節1拍め
訳書でも低音数字を原譜通りに6/5/♭としているが、現代譜(しかも通奏低音教本において)としては6/5/ナチュラルとするのも有力。

(7)7小節1拍め
原譜についた♭をナチュラルに変えたのも有力。

(8)33小節34小節
訳書では楽譜の下部に印刷できていない範囲がある。
§20(譜例4-14) ホ長調

(1)1小節4拍め表拍
原譜では右手「レ」」に臨時記号♯が付いているが不要。したがって訳書が省いたのは妥当。

(2)2小節2拍め
原譜のgis/e/dを訳書がh/gis/dと改めたのは無用。(なお、原譜ではこの調の大譜表譜例の時のみ、低音を1オクターブ跳躍する8分音符2つに分割しているが、訳書がこの処理を採用しなかったのは問題ない。)

(3)3小節1拍め
譜例4-1へのコメント(1)に同じ。

(4)3小節3拍め裏拍
現代記譜法によるなら右手「シ」に臨時記号ナチュラルが必要。

(5)4小節1拍め表拍
原譜の右手音「ファ」に付されている♯は、この場合、今日のダブルシャープの意味である。したがって訳書が単にこの♯を省いた処置は誤り。

(6)4小節1拍め裏拍
原譜の右手譜「ミ」の段に付されている♯は意味がわからない。訳書がこれを省いたのは妥当。

(7)4小節2拍め
低音数字♯を補う必要がある。また右手音「シ」に訳書が臨時記号ナチュラルをわざわざ(しかも本来不要なところへ念押しで)補ったのは誤り。これは♯を補うのでなければならない。

(8)4小節3拍め裏拍
現代記譜法によるなら右手音「ラ」に臨時記号ナチュラルを付す必要がある。また1拍めのファにダブルシャープを付した場合は、ここでファに臨時記号♯を付す必要が生じる。

(9)4小節4拍め
訳書は原譜を踏襲して右手音「シ」に♯を付しているが、上記(7)に従い2拍目で「シ」に♯を付した場合は、ここでの♯は不要となる(現代記譜法によるならば)。

(10)5小節2拍め裏拍から3拍め表拍
原著で右手音の上部に付されているタイは(本書における「タイ」の意味が準備を要する音の準備を示すことにあるとすれば)意味がわからない。訳書ではcisを結んでいるが、むしろこのタイを採用しない方が良いのではないか。

(11)5小節3拍め表拍
低音数字、正しくは6/5であろう。譜例4-1へのコメント(3)参照。

(12)5小節3拍め裏拍
現代記譜法によるなら右手音「シ」にナチュラルを補う必要がある。

(13)6小節1拍め
訳書は右手音「シ」にナチュラルを補っているが、不要。ここでなく前小節に必要だった。上記(11)参照。

(14)6小節4拍め
現代記譜ならa音に「親切の臨時記号」としてナチュラルがあってもよい。

(15)6小節・7小節間
原譜では小節線の上下に「タイ」が置かれているが誤植であろう。訳書が無視したのは妥当。

(16)7小節1拍め表拍
原譜・訳書ともに低音数字が6/5/♭となっているが、現代記譜なら6/5/ナチュラルとするのも有力。また現譜・訳書ともに右手音がd/gis/fis/dとなっているが、低いほうのdは不要かも知れない。なお原譜ではこの音に付すべき♭ないしナチュラルが落ちている(訳書はこの点については正しく補っている)。

(17)10小節1拍めと3拍め
右手音をここの譜例の音とするなら、低音数字として6が置かれてあるべき。
§20(譜例4-14) ホ長調

(18) 5小節3拍め
原譜にない右手e音を訳書が補ったのは妥当。

(19) 9小節2拍め
原譜の右手音gis/e/cis を訳書が a/e/cis と修正したのは妥当。

(20) 12小節3拍め
原譜の右手音 fis/dis/gis を訳書が fis/dis/h と修正したのは妥当。
§21(譜例4-15) 変ホ長調

(1)1小節2拍め表拍と3拍め
低音数字が「2拍目表拍に6/5、3拍目に6」となっているのを訳書が「2拍目表拍に6, 3拍目に6/5」と修正したのは妥当。

(2)3小節1拍め
譜例4-1へのコメント(1)に同じ。

(3)5小節3拍め
低音数字、正しくは6/5であろう。譜例4-1へのコメント (3)参照。

(4)6小節4拍め
原譜にない低音数字6を訳書が補ったのは妥当。

(5)10小節3拍め
原譜にない低音数字6を訳書が補ったのは妥当。

(6)33小節2拍め
原譜にない低音数字♯を補ったのは良いが、現代譜としてはナチュラルとする方がより適切ではないか。

(7)33小節2拍めと3拍め
原譜にある不要な小節線を訳書が省いたのは妥当
§22(譜例4-16) 変ホ長調

(1)3小節1拍め
譜例4-1へのコメント(1)に同じ。

(2)3小節3拍め裏拍
訳書は現代記譜ならば右手音「シ」にナチュラルが必要。(原典は当時の記譜ルール上問題ない)

(3)4小節2拍め表拍
原著で欠落した低音数字ナチュラルを補うべき。また訳書が右手音シに臨時記号♭を付したのは誤り、これはナチュラルを付すのでなければならない。

(4)4小節3拍め裏拍
現代記譜では右手音「ファ」にナチュラルを補う必要がある。

(5)4小節4拍め
訳書が低音数字としてナチュラルを補ったのは妥当。なお(2)で指摘したように2拍目の「シ」にナチュラルを付した場合は、現代記譜ルール上、4拍目裏拍のシにはナチュラルが不要となる。

(6)5小節1拍め裏拍
原譜で欠落した低音数字を訳書が♯と補っているが、どうせならばナチュラルとする方が良かった。

(7)5小節2拍め裏拍から3拍め表拍
訳書がCに補ったタイは、準備を要する音の準備を示すという方針に照らせば、無い方がよいのではないか。

(8)5小節3拍め表拍
低音数字は正しくは6/5であろう。譜例4-1へのコメント(3)参照。

(9)5小節3拍め裏拍
低音「シ」に訳書が♭を補ったのは妥当。

(10)5小節4拍め
現譜の低音数字「43」を訳書が「4ナチュラル」と修正したのは妥当だが、「4」と「ナチュラル」をもっと離す(つまりナチュラルを裏拍の位置とする)必要がある。

(11)6小節4拍め
現代記譜なら右手音a音に念押しの♭があってもよい。

(12)9小節4拍め表拍
現代記譜においては右手音「ミ」に♭を補う必要がある。

(13)10小節1拍め
前小節4拍目の「ミ」に上記(12)に従って♭を補った場合は、ここでのミにこのような「親切の臨時記号♭」を補う必要はなくなる。(なお、ここに「念押しの臨時記号♭」を付していることから、訳書の著作者が「現代記譜ルール」で楽譜作成をしていることは明らかである。また、9小節4拍目右手音「ミ」をes音でなくe音だと認識されていた(!)ことが伺われる。)
§22(譜例4-16) 変ホ長調

(14)3小節2拍め
原譜のc/g/esを訳書がb/g/esに変更したのは原典の教えに反する。

(15)7小節
原譜の右手音b/f/d3連打を、訳書ではb/f/b→b/f/c→d/f/bへとわざわざ変更しているが、どういう意図なのか。もしかすると直前のホ長調の実施例に影響されたのではないか。ハイニヘンは、この小節においては調によって和音のつけ方の異なる各種の実施を示そうとしているらしく、この三連打もニ長調に(訳者による誤植修正を経て)例があって、間違いではない。

(16)10小節1拍め
右手音に原譜にないb音を訳書が補ったのは、ぜひ必要とも思えないが、不適当ではない。

(17)10小節2拍め表拍
原譜にない低音数字6を訳書が補ったのは妥当。

(18)23小節2拍め
低音f音の位置にあった低音数字6の位置を、ひとつ後ろへ(d音へ)訳書が移動させたのは妥当。


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