------------------------------------------------------------------------  リコーダーJP メールマガジン                          106号 2016. 7. 21. ------------------------------------------------------------------------ ★ごあいさつ★  いよいよ真夏でしょうか。記録的な猛暑は間違いないとの予想もあるようです。 皆様いかがお過ごしでしょうか。  いつもご愛読ありがとうございます。RJPメールマガジン、第106号をお届け いたします。 RJP刊行物総合カタログ http://www.recorder.jp/rjpcatalogue.pdf ■目次■  <ごあいさつ>  1 Wind and Strings [早川廣志] (7/23 宮崎 [再掲])  2 そう楽舎公演「盛期バロックの響き」 (7/30 奈良)  3 ほうがくdeバロック 2016夏 (8/6 大阪)  4 アンサンブル山手バロッコ イタリアからの風に Part 2 (8/6 神奈川)  5 2016年8月の新刊  6 編集後記 ……………………………………………………………………………………………… ★1 Wind and Strings [早川廣志] (7/23 宮崎) [再掲] ……………………………………………………………………………………………… 早川廣志さんが率いるリコーダーアンサンブル「フラウティ」と、弦楽四重奏 団「グリザイユ・カルテット」のジョイントコンサートです。バロックからハイ ドン、ロッシーニ、そしてポップスに至る多彩なプログラム。 http://www.recorder.jp/events/160723.htm ……………………………………………………………………………………………… ★2 そう楽舎公演「盛期バロックの響き」 (7/30 奈良) ……………………………………………………………………………………………… バロック・オーボエ&リコーダー奏者、赤坂放笛さん主宰の「そう楽舎」の公 演。リコーダー、オーボエ、フルート、ファゴットをいろいろに組み合わせた、 トリオソナタの名作の数々が演奏される魅力満点のプログラムです。 http://www.recorder.jp/events/160730.htm ……………………………………………………………………………………………… ★3 ほうがくdeバロック 2016夏 (8/6 大阪) ……………………………………………………………………………………………… そう楽舎の大阪市助成公演。狂言師でもあるオーボエ&リコーダー奏者・赤坂放 笛さんが、西洋古楽・邦楽の友人たちの参加を得てくりひろげる、音楽ファンタ ジーの舞台です。 http://www.recorder.jp/events/160806.htm ……………………………………………………………………………………………… ★4 アンサンブル山手バロッコ イタリアからの風に Part 2 (8/6 神奈川) ……………………………………………………………………………………………… 朝岡聡さん主宰のアンサンブル「山手バロッコ」の演奏会。無料ですのでもう 予約が一杯かも知れませんが・・・ http://www.recorder.jp/events/160806b.htm ……………………………………………………………………………………………… ★5 2016年8月の新刊 ………………………………………………………………………………………………  8月は2タイトル(+2)がリリースになります。(+2は同一内容のA5版 製品です。) ■新実徳英 リコーダー・ソングブック 1 http://www.recorder.jp/piece/2/2179.htm  新実徳英さんは合唱曲の世界ではたいへん著名な人気作曲家です。この作品は 新潟のリコーダー愛好家(というよりリコーダー音楽のパトロン)田辺伸五郎氏 の委嘱により、合唱曲を改作して生まれた、親しみやすく、演奏して気分のいい 作品です。 ■バッハ フーガの技法 第14番 http://www.recorder.jp/piece/3/3055.htm  バッハの大作「フーガの技法」は、このへんから番号がはっきりしなくなって きます。今回の「第14番」は、初版では Contrapunctus inversus a 3 と題さ れて15番目に置かれた曲です。演奏はPapalinさんです。 ……………………………………………………………………………………………… ★6 編集後記 ………………………………………………………………………………………………  私などは、「フランスもの」と聞いただけで「あー、難しい、いまいちよくわ からん」と思う時期が長かったのですが、皆様はいかがでしょうか。いろいろと 演奏上の「作法」・・・じゃない、「様式」の問題がうるさいので、その点でも 敬遠したい時期が長く続きました。  まぁ、お好きなかたは、そういうこまごましたことを勉強して実践するのが、 また楽しいのかも知れませんね。  私の場合は、いまだにフランスの「王宮系」の音楽はあまり好きではないので すが、「市民系」の音楽は大好きです。しかし、フランス音楽といえば、その正 統というか中心をなしているのは「王宮系」なんですよねぇ。ブルボン王朝なん ぞとっくに倒れたのに、音楽の世界ではいまだに王宮(の音楽)が威張っており ます。  フランス王家のなかでも太陽王・ルイ14世は、「朕は国家なり」の名言で有 名な、絶対王政全盛期の王ですが、この人が相当な音楽好きだったもので、ルイ 14世の宮廷では音楽家が厚遇されました。しかも、時あたかもバロック音楽が 全盛に向かう頃だったのですから、フランスでは宮廷にたくさんの優秀な音楽家 が集まりました。彼らはさかんに王のため宮廷のための音楽をつくって演奏し、 また本を書いて論じたりもしました。  フラウト・トラヴェルソ奏者オトテールの一族は、その代表的な存在です。リ コーダーについてもバロック式リコーダーの原型はオトテールたちが作ったんだ そうですね。  そういえば、少し世代が下り、ドイツ(プロシア)の絶対王政の盛時を築いた フリードリヒ大王の元にも、やはり優秀な音楽家が集まりましたが、彼ら(てい うか彼、クヴァンツ)も、理論家として知られていて、著名な本も書きました。  こういう人たちが書いた本に記されている、当時の演奏習慣・演奏技法などが、 古楽の世界ではたいへん重視されております。  もちろん、広い意味において、これらの文献を重視すべきであるのは当然です。 ただ、、、これは近代歴史学では常識に属することですが、、、書いてあること を「批判的に」見ることが絶対に必要で、けっして鵜呑みにしてはならないと私 は思っています。  たとえば、オトテールは息のビブラートを下品なものとして斥け、指によるビ ブラート(フラットマン)を推奨しました。  それは事実であるとして、さて、そこから何を読み取る(判断する)か?  「バロック作品では(特にフランスバロックの作品では)息のビブラートは行 なうべきものでなく、フラットマンを用いるべきである。フランスではみんなが そう認めていたし、みんながそうしていた」 と、単純に結論するのも、ひとつの読み方でしょう。そう解釈なさるかたは、き っと心がまっすぐなんですね。しかし、こう言ってはナンですが、もう少しひねく れた見方についても学ばれたほうがいいかも。  なにしろ近代歴史学の学徒であれば、通常、左様に素直な読みかたはいたしま せぬ。(私は大学で史学科の劣等生でした。)まず、「オトテールは、本にこう 書いた。すなわち、書きたいと思った、書かかなければならないと考えた」とい うこと。この事実に必ず注目するでしょう。  え、「そりゃ、書きたいから書いたんだろうさ」って? いやいや・・・  いいですか、「みんなが認めていたし、みんながそうしていた」ことであれば、 オトテールはけっして本に書かなかったでしょう。書く必要がない。書こうかど うかと迷いすらしなかったことでしょう。  たとえば、「リコーダーには、ぜひ口で息を入れるべきだ」とオトテールが本 に書いているか?   いえ、実は、どうかなのか知りませんけど(笑)、多分「論じ、主張する」事 柄としては、書いていないでしょう。なぜなら、誰もがみんな、リコーダーには 口で息を入れるのを当然と考えており、そのようにしていたからです。そういう 万人が認めていた当然のことは、書く必要がありません。人は、本でも書こうと いう場合には、必ず、「書くに価すると考えたこと、書く必要があると思ったこ と」を書くものなのです。  逆に言えば、オトテールが、どこかで「リコーダーには口で息を」と大真面目 で論じているのならば、面白いんですけどね〜。なぜって、当時のフランスに、 鼻にリコーダーを当てて演奏する有力な流派があったわけだろうから(笑  まぁ冗談はさておき、上の理屈はおわかりいただけることでしょう。すなわち、 オトテールが「息のビブラートは駄目」とわざわざ書いたという、そのこと自体 が、実は逆に、 ★当時、息のビブラートを好んで用いる人たちは、多数存在した ということを明白に示しているのです。これは、まず間違いのないところです。  そして、それに加え、 ★オトテールが排撃の論陣を張る必要を認めたほどに有力な、「息のビブラート  派」のすぐれた演奏家がいた ということすら、想像できなくはないのです。というより、そう推定するのがむ しろ自然ではないかと。  だってねぇ、「代々の宮廷音楽家」ですよ、オトテールは。そして、この特権 的な地位は、音楽家としての能力もさることながら、直接的には、むしろ「有力 なライバルたちを差し置いて、王や宮廷のお気に入りであること」に立脚してい た、という事情を忘れてはなりません。  当然、彼はその地位を何としても守りたい、守らなければならない立場にあり ました。換言すれば、彼が「自分の権威を守りたい、それによって地位を守りた い」と考え、そのために行動する傾きは、非常に強かったものと推定してよろし いでしょう。そして、本でも書こうという場合には、こういう性向は特に強く作 用するのが常です。  さてそこで(以下しばらくフィクションです)、ここに、息のビブラートが得 意で、そのつややかにしてわかりやすい演奏により、多数の市民や下級廷吏たち に人気のあった、トラヴェルソ&リコーダー奏者・A氏がおりました。宮廷では オトテールが威張っているものの、パリの巷における彼の人気たるや侮りがたく、 その評判が高級廷臣たちや王の耳に入るのも、さほど遠い日のことではなさそう です。  そこで、オトテールは何としてもこのA氏一派に打撃を加えなければならなく なりました。A氏一派の、わかりやすい、つややかに美しい演奏の流儀を「下品」 なものとして排撃するとともに、自身が考案した難解な記号をちりばめた、装飾 過多の、それでいて音楽的実質においては地味で渋い音楽を、「これこそが気品 ある、宮廷にふさわしい高級な音楽である」とばかり、全力で擁護しなければな らない。その主張を本にも書いて論じなければならない。宮廷音楽家たちの中に 自分の味方を増やし、高級廷臣たちにもその論を吹き込まなければならない。  オトテールの演奏論が書かれるにあたっては、このような切実な必要もひとつ の動機となりました。そして、あのうるさい装飾記号満載の楽譜とその音楽の流 儀も、このような背景のもとでさらに成長していくのでした・・・(フィクショ ン終わり)  これはもちろんフィクションです。しかし、あながち無理な想像でもないと私 は思うのですが、いかがでしょう。史実の枝葉末節がどうであったにせよ、これ に類した事情はあったのではないか。  少なくとも、パリ市民に支持されていた市民音楽家・ボワモルティエが残した 出版譜には、私が知る限り、あんな勝手放題な私製の記号は何も書かれていませ ん。息のビブラートを用いるのでなくフラットマンを用いるべきだとする主張も、 その楽譜には(知る限り)まったく含まれていません。  そして何より、適度に息のビブラートすると気持ちいいんですよね〜ボワモル ティエの音楽は。私のような者にとっては、百巻の「文書、記録」よりも、この こと、すなわち、曲のなかの音符たちがどのように鳴りたがっているか、という ことの方が、はるかに重要かつ確実な証拠です。  もちろん、「宮廷では」どうだったかと言えば、まぁそれは多分オトテールの 威勢が圧倒していたのでしょうから、息のビブラートを使う奏者はほとんどおら ず、「フラットマン」はじめ、独特な装飾を満載した演奏が全盛だったろうと思 います。  それに、ルイ14世個人の好みが、ああいう華美な装飾にあったらしいという 話もありますしね。もしそうだとすれば、この畏るべき専制君主に仕える音楽家 たちが、お追従に走らなかったはずはありません。すなわち、オトテールの著作 も、また彼の残した音楽=楽譜も、そのようなもの(つまり王に対する迎合とお 追従を常に含むもの)として捉えられなければならないのです。  しかし、「パリの巷では」どうであったか、一般の人々がどのように音楽を演 奏して楽しんでいたか、といえば、それは全然、別の問題だと思います。上述の ように「オトテールが自著に息のビブラート否定論を書かなければならなかった」 という事実からは、逆に、「巷では、息のビブラートが愛されていた」というこ とが、かなり確実に推定されます。そして、ビブラートの件だけではなく、もっ と総合的にみても、オトテールらが記録している宮廷の演奏様式とは随分ちがっ た演奏様式が、人気を博し、支配していたろうと私は確信しています。パリの人 々に愛されたボワモルティエやジャン・ダニエル・ブラウンらの諸作品が、その ことを何よりも雄弁に証しているからです。  ボワモルティエについては、いつか、折があったらまた。  なにしろ、そういうわけですので、「フランスものだから」というので、何が なんでも(順次進行箇所では)イネガルをやり、何が何でも(ビブラートは)フ ラットマンだけで押し通す、みたいな立場は、私の考えからは、はるか遠くにあ るものなのです。 (RJPディレクター 石田誠司) ------------------------------------------------------------------------  リコーダーJP メールマガジン                              106号 2016. 7. 21. ------------------------------------------------------------------------ 編集・発行 リコーダーJP http://www.recorder.jp info@recorder.jp ※このメールマガジンは、お申し込みにより配信しています。もしも間 違いやいたずらの登録により配信がなされている場合や、購読を停止 される場合は、リコーダーJPダイレクトの皆様ならば、お手数ですが、  上記 info@recorder.jp まで「メールマガジン不要」などの題でメー  ルでお知らせください。「まぐまぐ」からお申し込みいただいた皆様  は、  http://www.recorder.jp/magazine_mag2.htm  から配信停止のお手続きをお願いいたします。 ※リコーダーJPからの配信は「B.C.C.配信」です。