第5回福岡古楽祭「古楽コンサート」(第1部)

★ディレクター石田の「シチリアーノ」も美しく★


   
 福岡の地下鉄はすてきである。窓が大きくて、深緑のシート、そして、黒いふちどりのある朱塗りのドアが、まるで漆塗りの器のようだ。大阪の、狂言役者にしてバロックオーボエ奏者(リコーダーも吹かれる)赤坂放笛氏所有の「重箱チェンバロ」(というのは私が密かに呼んでいる名だが、外が黒く、蓋をあけると中が赤く塗られている)を思い出すデザインである。

 その地下鉄に乗って空港からほんの10分あまりで到着する「赤坂」駅からしばらく歩いたところにある「あいれふホール」が、第5回福岡古楽祭「古楽コンサート」の会場だった。「あいれふ」という、医療関係の機関などがいろいろ入っているビルの最上階に、大きめの映画館ぐらいの、そのすてきなホールがあった。
  
 会場に入ると、まだ午前の催しであるチェンバロの公開レッスンが行われていた。若い女性のチェンバロ奏者が、40前後かと思われる男性講師の指導を受けており、舞台上に椅子をならべて聴講している人が女の人ばかり4、5人、そして通訳を、古賀さんという、これも女性のチェンバリストがつとめていた。

 古楽コンサートは、予定どおり午後1時に始まった。女性チェンバロ奏者によるエマニュエル・バッハのソナタに始まり、楽しい雰囲気でコンサートが進む。

 最初に強く印象に残ったのは、大阪の若い女性二人組(相愛大学のご出身だとのこと)が、チェンバロとリコーダーで演奏されたルイエの作品3の6のソナタだった。実に軽い、やわらかな吹き方で、曲よし音色よし、たいへん楽しく聴けた。

 リコーダーJPのサポーターをしてくださっているSさんのアンサンブル「アンサンブル・ボアグラース」(※注)出演。こちらの皆さんも、前に石田の「シチリアーノ」を演奏会で取り上げてくださり、そのときのヴォイスフルートで吹いた録音を送ってくださったことがある。今回はヘンリー・パーセルのパッサカリアを2曲演奏された。
  
 プログラムの8番目がいよいよ、だざいふリコーダーアンサンブルの皆さん(※注)による、石田の「シチリアーノ」の演奏である。全部で3曲演奏されたうち、はじめの2曲はルネサンスの曲で、AATBの四重奏で演奏されていたが、最後の「シチリアーノ」段になると、もう1人のかたも(5人でいらしていたのである)チェンバロの前に座られ、伴奏つきで4重奏となった。4重奏用にアレンジされていて、「勝手にやってすみません」と恐縮されていたが、和声を追った素直なアレンジで、きれいに響いていた。
  
 ほかには、フォルテピアノの伴奏でモーツァルトを歌ったソプラノ独唱や、チェンバロ伴奏でヘンデルのオペラの二重唱を歌ったソプラノ二人組など、「歌」の人たちが際立って素晴らしかった。会場で会った千葉のリコーダー奏者・Iさんも、「あれぐらい歌える人が、今の日本にはゴロゴロいるんですよねぇ」と、感慨深げにいおっしゃっていた。Iさんが途中で帰られてから出演した、男女4人の「重唱グループ」も、実にもううまくて惚れ惚れする響きを出していた。声が清潔に美しい上に、バランスも、そして音程もすばらしく合っているのである。

 また、私が初めて観賞させていただいて楽しかったのは、2組あった「バロックダンス」。8人ぐらいのグループの皆さんも楽しかったし、若い女性が1人で舞ってくださったのも良かった。青を基調にしたきらびやかな衣装が美しく、チェンバロとリコーダーがかなでるパッサカリアなどの音楽に乗って典雅に舞う。

 日本では能なんかを舞っていた時代のことだから、ヨーロッパのダンスも、のちの19世紀のバレエのような激しいものではない。だが、くるりと回転して長いフレアスカートをふわりとさせる表現なんかもあるし、ステップするだけではなくて軽くジャンプすることもある。全体に動きがちゃっちゃと速い。そして、手の表情が美しかった。
  
 いろいろな収穫があり、たいへん楽しませていただいた。出演された皆さん、運営の皆さんに感謝したい。

※注
当初、「アンサンブル・ボアグラース」と「だざいふリコーダーアンサンブル」とが逆になっていました。おわびして訂正いたします。


 リコーダーJPディレクター 石田誠司




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