リコーダーJPって・・・・

なぜチェンバロ伴奏にこだわるの?



カワイ フレミッシュ2段鍵盤
価格:2,800,000円
写真提供:カモンミュージック



 リコーダーJPがご用意する新作曲は、すべて「チェンバロ伴奏」によることにしています。(バロック時代の古典作品については、さらにビオラ=ダ=ガンバの演奏を重ねたものをご用意することを視野に入れていますが。)ピアノ伴奏や、ましてポップな楽器(エレキギターやドラムス、電子オルガンのような音など)はまったく用いる予定がありません。

 これはなぜなのか、どのような考えに基づくのか、ということをご説明しましょう。


●楽器には固有のサウンド世界がある●

 音楽は文化であり、文化というのは、ある特定の歴史的状況の中で成立するものです。ですから、ある音楽文化の中で生まれ育った楽器は、その文化の刻印が押されており、同じ文化に属する相性のいい楽器との組み合わせにおいて、最も光り輝いてくるものなのです。

 具体的には、リコーダーの場合は、主としてチェンバロ、それに加えてのビオラ=ダ=ガンバやバロックチェロと組み合わせてのアンサンブルが、大作曲家たちも「これがいい」と感じて選んでいた編成でした。これは、実際に聴いてみれば、誰でもが一聴してすっかり納得できることで、リコーダーの、一種素朴で透き通った音色は、金属線を小さなツメではじいた音が木製の響板やボディーと共鳴する繊細なチェンバロの響きと、本当によく響きあい溶け合う、すばらしい相性の良さを発揮するのです。

 音量のバランスも、たいへんいいのです。チェンバロの、室内で演奏するのに適した控えめな音量は、リコーダーの音量とちょうどいい具合に調和します。こんな音量で音楽が演奏されていた、古きよき時代があったのですね。


●ピアノとリコーダーは合わない●

 ですから、19世紀に改造につぐ改造を重ねられて巨大な音量を獲得したコンサートグランドピアノなどとは、アルトリコーダーは、まったく音量がアンバランスで、合いません。そして何よりも、音色が合わないのです。ピアノの、強いアタックのあと豊かに鳴り響く、まばゆいばかりの色彩感に満ちた音は、アルトリコーダーのやわらかな肌触りの素朴な音色を、すっかり覆い隠し、色あせたものに聴こえさせてしまいます

 グランドピアノは、同じように改造されて強靭な音色と音量を獲得したモダンフルートや、同様に改造された、はがねのようにしなやかに自在な音色をかなでるモダンバイオリンの音とならば、本当によく合います。そして、これらの楽器は、情緒の振幅が大きく、感情表現の濃厚な旋律をかなでるロマン的な近代作品を演奏するとき、その圧倒的な強い表現力を発揮します。まさに公開演奏会の舞台で名人演奏家たちが妙技をふるって、千人から三千人もの聴衆一人残らずを魅了し尽くすためには、このような太くて力強い音と色彩感豊かで強靭な表現力が必要なのです。


●控えめな音量幅と微妙な音色変化で奏でる音楽の良さ●

 しかし、リコーダーが身を置いていた18世紀の音楽は、そんな世界ではありませんでした。18世紀末まで、名人演奏家が公開演奏会で演奏するための音楽など書かれてはいなかったのです。音楽は、むしろ身近な場所で身近な人とともに演奏して楽しむために書かれていました。そのため、楽器の音は小さく、その表現力は、大きな振幅での強弱や音色の劇的な変化ではなくて、むしろ非常に控えめな強弱表現と微妙な音色変化に依存していました。でもこれは、けっして「劣っている」のではありません。

 大げさな身振りで大仰な表現をすることだけが、尊いことでしょうか?むしろ、ひっそりと、微妙な領域で、控えめに表現することでこそ、本当に心の底まで伝わることが、たくさんあるのではないでしょうか。

 リコーダーは、そのような、音楽が人々とともにあった時代、人々の生活の場や生活の場面とつながって存在した、音楽が本当に人々の生活の中で愛されていた、幸福な時代の楽器でした。ですから、そのような素性にふさわしい、控えめで微妙な表現力の楽器なのです。そのような繊細な楽器には、同じように繊細な表現力の楽器がマッチします。

 チェンバロは、まさに、音の強弱も大きなものとして出ませんし、音の色彩感も大きな振幅で出てきませんが、そのかわり、アルペジオや装飾音をたくみに用いて、音の組み合わせ方で控えめに語っていく楽器なのです。チェンバロがリコーダーと相性がいいのは、当然のことだと言えるでしょう。


カワイ楽器
フレミッシュ 一段鍵盤モデル 
価格:1,500,000円より
(写真提供 カモンミュージック)


●生活の中で音楽演奏を楽しむ文化●

 私たちがこのサイトでめざしている、チェンバロ伴奏によるリコーダー独奏のご提案とは、音楽の楽しさがよくわかるかたが、気が向いたときに一人で、あるいは身近な場所で身近な人たちといっしょに楽しく、音楽演奏を楽しんでいただこうということです。これは、18世紀までは西洋でも当然のことであった、また日本では三味線や琴などの楽器を用いてつい最近まで(大正時代ごろまででしょうか)かなり一般的であった、音楽と人との幸福な関わりかたなのです。

 しかし、「チェンバロ伴奏」は、これまでは、ピアノ伴奏以上に、身近には手に入らないものでした。チェンバロなどという楽器は、持っている人もまだ少ないですし、弾ける人もたいへん少ないのです。しかし、それを、皆さんの音楽的要求に十分に応えられるような音楽的な品質のものに仕上げて、CDにおさめた形でお届けできるとしたら?そうすれば、生活の中で、この素晴らしい楽器の演奏を、十全な形で、どなたにでも楽しんでいただけるようになるのではないか?

 そう考えたのが、私たちの出発点だったのです。ですから、私たちは、ピアノや電子ピアノその他、他のモダンな楽器による伴奏には見向きもするつもりはありません。リコーダーの最良の伴奏楽器はチェンバロであり、そのチェンバロ伴奏を、安く、十分な品質を持つものとしてお届けできるようになったからこそ、リコーダーJPは誕生したのです。


●ビオラ=ダ=ガンバなどを加えないのか?●

 古楽に詳しいかたならば、私たちが「リコーダーの最良の伴奏楽器はチェンバロ」だと主張するのをごらんになって、「でも、チェンバロだけではなくて、チェンバロにビオラ・ダ・ガンバあたりを加えてアンサンブルするのがむしろ普通だったのでは?」という疑問をお持ちになっていることと思います。

 その通りで、私たちはもちろんそのことを知らないわけではありません。しかし、一つには、「通奏低音」(バロック時代に特有の伴奏のことをこのように呼びます)を、チェンバロとビオラ=ダ=ガンバの編成で演奏する、とした場合に、現代の作曲家たちにとっては、かえって音楽を発想し辛くなります。現代の作曲家たちは、「鍵盤楽器と旋律楽器」とのアンサンブルとして曲を発想するのに、慣れ親しんでいるからです。ですから、バロック時代にも、チェンバロだけで伴奏(通奏低音)を演奏することは、必ずしも珍しくはなかったはずであること、また、「独奏楽器とオブリガートチェンバロ」による楽曲(これは独奏楽器とチェンバロだけで演奏されたと考えられます)も多数存在すること、などを考え合わせて、「チェンバロによる伴奏」で新作曲を用意していくことにしたものです。いわば、リコーダーJPがご用意していく楽曲は、「リコーダーとオブリガートチェンバロのための楽曲」であるとお考えください。

 また、伴奏制作上の技術的な問題として、チェンバロ伴奏として制作している限り、テンポの変更やピッチの変更、また部分的なテンポの変化(いわゆるアゴーギク)などを奏者のみなさんの必要に応じて合わせていくことができるのですが、ここにビオラ・ダ・ガンバの生演奏を加えてしまいますと、とたんに技術的な困難が増し、制作コストは大幅に上がってしまいます。その点も、現在のところ「チェンバロ伴奏」に限定している一つの理由になっています。

 ただ、バロック作品の伴奏につきましては、ビオラ・ダ・ガンバ奏者のご協力を得て、ガンバの演奏をともなう伴奏をご提供することを視野に入れております。いろいろと難しい問題はあるのですが、いずれご用意できると思いますので、どうぞ楽しみにお待ちください。




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