リコーダーは木管楽器です。文部省が長らく音楽教科書でリコーダーを木管楽器に分類せず「その他の楽器」というわけのわからない種別に入れていたという、笑えない笑い話もありますが、木で作られた管楽器であるリコーダーが木管楽器であるのはまったく争う余地のないことです。
もっとも、リコーダーといえばプラスチック楽器がイメージされるのが現実です。そのことはリコーダーという楽器にとって一つの不幸だと言うこともできると思うのですけれども(というのは、リコーダーは子供用のチャチな教育楽器だ、という誤解とセットのものだからです)、逆に、すぐれたプラスチック製のリコーダーの存在は、おおげさに言えば「人類にとって本当に喜ぶべき幸福」だ、という言い方もできると思います。学校という市場を得て、すぐれた技術を持つ各メーカーがしのぎを削って研究開発を進めてきましたから、すぐれた楽器が信じられないほど安い価格で売られているのです。リコーダーJPが呼びかけている「手軽に音楽演奏を楽しみましょう」という提案も、これらのプラスチックリコーダーの存在なしにはあり得なかったものです。
しかし、リコーダーがもともと木の楽器だったのは事実です。そして、木の楽器にしかない良さもたしかにありますから、「よし、これは面白そうだ。独奏リコーダーを楽しむことにしよう」とお決めになったら、そして、経済的事情が許すなら、いずれ時期をみて、木の楽器もお求めになってみてはいかがでしょう。他のいろいろな楽器に比べれば、木製でもリコーダーは比較的安いものからいろいろあるのです。
くどいようですが、プラスチック楽器にもすぐれたものがありますし、音楽演奏の楽しさは十分に味わえます。その意味では、「プラスチックリコーダーで何が悪い!」というのも実感なのです。しかし、矛盾することを言うようですけれども、「木製の楽器で演奏するとその楽しさはまた格別のものがある」というのも、またひとつの実感です。「それぞれに楽しさがある」というのが、いちばん穏当なところでしょうか。
ここでは、木のリコーダーについて、いろいろな角度からその魅力をさぐってみます。
目次
■木のリコーダーだけの魅力
■プラスチックリコーダーとの比較
■自分の楽器を育てる
■木のリコーダーだけの魅力■
よい木製リコーダーをくわえて吹いてみると、プラスチックリコーダーでは絶対に味わえない、本物の木製楽器だけの魅力が、どなたにでもストレートに感じられるでしょう。
たとえば・・・
●唇に伝わるやわらかな木の感触。
●ほのかに香る木のかおり。
●しっくりと手に馴染む木の手触り。
●スムーズでクリアな発音。
●あたたかく響くやわらかな音色。
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「木の感触」だなんて、つまんないことを言っている、とお思いでしょうか? いいえ、楽器は体で感じながら、いや、それどころか「体の一部」とする感覚で使う道具ですから、唇や指への感触も、とても重要なのです。
さて、ではもう少し別な角度から、木製リコーダーの魅力に迫ってみましょう。
■プラスチックリコーダーとの比較■
と言いながら、いきなりプラスチックリコーダーの話になりますが、プラスチックリコーダーにもいろいろな良さがあります。
●極めて安価である。
●メインテナンス(手入れ)が楽で頑丈。
●同じ機種のリコーダーならばピッチや音階などの癖が非常に近似している。
●長時間演奏しても楽器がいたまない。
●品質が一定に保たれていて、よい楽器に育てるなどの苦労がない。
これを逆に言えば、木製リコーダーの欠点(?)になります。すなわち、
●比較的高価である。
●ある程度の手入れが必要。
●手作りであり自然素材によっているため、楽器によって音には個性がある。
●長時間(2時間以上など)続けて演奏すると楽器の寿命を縮める。
●楽器に一本一本個性があるので自分の好みの楽器に育てるには努力が必要。
しかし、こう並べてみても、木製リコーダーの「欠点」は、欠点と言えるものではないことがおわかりでしょう。これは、自然素材を用いた手作りの本物の楽器であるなら当然の性質ばかりです。
本物の楽器がある程度の値段になるのは当然ですし、リコーダーは他の楽器(たとえばフルート、たとえばバイオリン)と比べれば、高級木製楽器でも非常に安いと言えます。
手入れと言っても、演奏後は水分をふき取り、そのまま少し乾かしておいてやることや、月に一度程度オイルを塗ってやることぐらいです。あとは楽器職人さんに定期的に調整をお願いしておけば万事OK。
また、長時間の演奏ができないと言ったところで、ふつうアマチュアの奏者が実質2時間以上も続けて練習できることが、そうそうあるでしょうか?
さらに、木製楽器は「自分の好みの楽器に育てるのに努力が必要」とは、言い換えれば、「努力すれば自分の好みの楽器に育っていく」ということでもあります。ここが実はけっこう大切なところなのです。
■自分の楽器を育てる■
たとえば、強い音をめざす奏者ならば、強い音をめざしてその楽器にいつも少し強いめの音を求めながら演奏し続けていると、木でできた楽器は、それに少しずつ応えてくれるように育っていきます。息の通りかたに癖がついてきたり、また、おそらく木を構成する細胞などにも少しずつ構造的な変化が起こってくるのでしょう。これはバイオリンなどの弦楽器ではとても顕著に起きる現象で、永年にわたってよい響きで鳴るように注意しながら鳴らし続けたバイオリンは、木の内部が響きに対応して「結晶」してくるかのように構造が変わってきて、ますますいつもよい響きで鳴る楽器に育っていくといわれます。同じことがきっとリコーダーにおいても起こっているのでしょう。
そのように、楽器を育てていく楽しみは、木の楽器ならではのものです。もちろんここには、楽器職人さんに調整をお願いするさいに、自分の要望を伝えて、力を貸していただくことも有益です。楽器職人さんたちは、ブロックや指穴をはじめとする楽器の細部に少しずつ調整の手を加えて、あなたのめざす音が容易に出る楽器へといつも状態を保ち改善するのに、協力してくださることでしょう。 |
リコーダーJPディレクター 石田誠司
2002.3.
2006.1.5.改訂
2011.3.28 再訂
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