初級者のための、楽しくためになるコラム
VIVA! リコーダー その1

美しい音色ってどんな音色?



美しい音色は最高の財産

 楽器奏者がいちばん大切にする財産は、美しい音色です。これを得るために、たとえばオーボエ奏者など、「楽器を吹いている時間とリード削りをしている時間と、どっちが長いの?」なんてからかわれるほど、「リード」とよばれる薄い板(これが音の出る部分になります)の製作や調整に時間を費やします。また、多くの管楽器奏者は、呼吸法の訓練を重視します。ある有名なクラリネット奏者の公開レッスンがあるというので行ってみたら、ろくに楽器など吹かせずに呼吸の練習ばかりさせていた、なんて話もあるぐらいです。

 これがヴァイオリンなどになると、いくら腕があっても、ある段階からは、楽器がよくなくては話にならないもののようです。そこで、17世紀末から18世紀初めにかけて活躍した名工・ストラディヴァリウスが作った楽器などは、あまりの人気のため数千万円から数億円もするのはご存知でしょう。



「楽器で決まる」といわれても・・・

 さて、リコーダーにおいても、美しい音はもちろん大切です。リコーダーという楽器は、音そのものは「ブロック」とよばれる仕組みで発生しますから、奏者の腕前で音色が変わる度合いよりは、楽器そのもので音色が決定してしまう度合いの大きな楽器だと言えます。この点、事情は、オルガンやピアノ・チェンバロなどの鍵盤楽器に似た面があります。

 ですから、プロ奏者や熱心なアマチュアリコーダー奏者たちは、「自分に合う、よい楽器」を求めてやみません。個人的に楽器制作者に自分の好みを伝えて制作してもらう奏者も少なくありません。そうした注文に応じてリコーダーを製作する製作家としては、奏者としても著名な山岡重治氏などがいらっしゃいます。

 とは言え、そんな楽器はたいへん高価で、誰にでも手が出せるものではありません。



息の入れ具合・タンギング・ビブラート

 そこで、自分の持っている楽器で、できる限り美しい音を得るためにはどうすればよいのでしょうか。

 リコーダーの音色に最も大きく影響するのは「息の入れ具合い」です。息が少なすぎる(弱すぎる)と音程が低くなりすぎ、反対に息が多すぎる(強すぎる)と、オーバーブロウといって、音程が高くなり、音もつぶれた感じになってしまいます。そういうふうにならない、適切な範囲の息の量で吹くことが大切です。その範囲でならば、息の強さを加減することで、音の強弱も表現できます。

 それよりも前、タンギングが適切に行われて、きれいに発音されることも、もちろん大切です。発音の瞬間に、「キッ」という音が鳴ってしまうときは、タンギングがきつすぎたり雑だったりしているのです。もっとも、これは、楽器にもよります。プラスチック製の楽器は、やはりこういう汚い発音が起こりやすく、よい木製楽器になるほど、美しい発音が得られやすいようです。

 また、ノドや腹を使って微妙に息をふるわせることによって、「ビブラート」の効果も発揮できます。ビブラートについては、嫌う考え方もありますが、少なくとも現代の私たちが現代のリコーダー曲を演奏するのに、ビブラートを避ける必要は、まったくありません。ビブラートは、音色に潤いを与え、音の表現力をたいへん強めてくれます。

 このように、同じ楽器でも、吹き方で、なるべく美しい音色をめざすことはできます。



だけど最も大切なことは・・・

 しかし、実は、その前に、もっと大切なことがあるのです。それは、他でもない、私たちがやるのは「音楽の演奏」であって、「音の演奏(?)」ではない、ということです。

 たとえば、あなたが最近演奏していらっしゃる曲の最初の音符を考えてみてください。その音符は、明快なタンギングを使って開始すべきでしょうか、それとも、やわらかなタンギングであるべきでしょうか。音が出始めてからは、しだいに強くなるように吹くべきでしょうか、それとも、逆にしだいに音を弱めるべきでしょうか。また、それらの程度は、どれぐらいでしょうか。そして、その次の音符は、最初の音符と比べて、どういう違いのある吹き方をすべきでしょうか・・・。

 作曲家は、そこまで楽譜に書いていません。書けないのだ、と言ってもよいでしょう。ですから、最初の一つの音を吹くだけでも、演奏者にとっては、自分で判断しなければならないことがたくさんあるのです。そして、美しい、すぐれた演奏においては、曲の中の音たちが、それぞれ適切で説得力のある表情で演奏されているため、「あぁ美しい演奏だな」と感じられるのです。「いい音色だな」と思ってもらうためにも、その音の表情・表現内容が適切であることが絶対の条件になります。

 いや、ふつう「音色の美しさ」と言われているものは、要するに「その音が発揮した表現内容の美しさ」に他ならないのですから、「音色そのもの」などを気にするよりも、まずは、タンギングや強弱(ひとつの音の中での強弱の変化を含めて)について、その表現内容をつきつめていくことが大切なのです。そうするうちに、「より美しい音楽的な表現のために、自分にはどんな音色が必要か」が、もっとはっきりと見えてくることでしょう。

 けっきょく、美しい音色とは、「音楽的な、美しい演奏」における音色のことに他ならないのです。音楽表現として適切に演奏された音が、美しい音色の音として聞こえるのです。

 私たちが行うのは、「音演奏」ではなく、「音楽演奏」であるということ。このことを忘れないようにしたいものですね。

リコーダーJPディレクター 石田誠司   

  

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