■いろいろなタンギング■
よくある初級用のリコーダーの教則本などを見ますと、タンギングは「トゥ」というつもりで息を入れる、と説明されていることが多いですね。もちろんそれは間違いではなく、「トゥ」というタンギングは基本中の基本でしょう。舌を使わずに、ろうそくを吹き消すときのように「フゥー」と息を入れたのでは、しっかりした表情のある音が出ませんから、リコーダーでは、どの音も、舌で息の出はじめをコントロールするのが原則です。
ただ、実は、タンギングの方法には無数の種類があって、これを工夫するのがリコーダー演奏の楽しさの一つだと思います。「タンギングといえば、トゥのこと」と固定して考えるのでなく、「ダ」という感じ、あるいは「ル」という感じとか、いろいろと工夫してみると、リコーダーの音の表情には無限の可能性があることがわかってきます。
たとえば、「ド・レ・ミ」の3つの音を吹くのに、「トゥートゥートゥー」とタンギングするのと、「トゥールードゥー」とタンギングするのとでは、まったく表情が違うことがおわかりでしょう。
また、同じ「ル」のタンギングでも、舌を当てる位置を、歯ぐきのあたりにするのと、少し奥の方にするのとでは、かなり音が違います。奥の方でタンギングすると、音の立ち上がりは鮮明さを欠く反面、息が楽器に届くまでの間に距離があるため、少し息に勢いがつき、「ポン」という感じの、丸い音が出ますよね。これはこれで、一つの表情です。
■タンギングをしない場合=スラー■
例外として、タンギングをしないのは、二つの音をつなげて演奏する「スラー」の場合です。バロック曲ではのちの音楽ほどスラーは書かれていませんが、サンマルティーニなんかになると、スラーをじょうずに織り込んだピリッとしたアーティキュレーション(音のつながり具合の変化)が、とても面白い要素になっています。
タンギングをしないスラーと、いろいろなタンギングによっていろいろな表情をつけた音とがおりなす、まるで人間の話しのような語り口が、リコーダー音楽の大切な要素なのです。
※ ただ、リコーダーJPの現代作品で、3つ以上の音符にわたってスラーが書かれている場合は、ごくやわらかな、かすかなタンギングを入れて、音に表情をつけながら、なめらかに音がつながっていくようにする方がいい場合がかなりあります。
(付記)多数の音符にまたがるスラーの取り扱いについて、問題のある表現になっていましたので改めました。東京都のOさん、ご指摘ありがとうございました。(2002年8月23日)
■微妙な表現の伝わる範囲■
もっとも、タンギングの違いによる音の表情の違いは、ごく微妙なもので、大きなホールで演奏したりしたのでは、まず聴衆には伝わらないでしょう。もともと、リコーダーは、そんなことに使うための楽器ではないのです。17世紀や18世紀の西洋で、リコーダーがもっとも普及し全盛を極めていたころ、リコーダーは、生活の場面の中で手軽に音楽が演奏できる楽器として親しまれていたのです。ですから、身近な場所(たとえばだれかの家とか町の広場とか・・・)に集まった、家族や友人、近所の人などの仲間が、演奏仲間でもあり、聴衆でもあったわけですね。
ですから、独奏リコーダーの演奏会をやるなら、ごく小さな場所で、ごく小さな気軽な集まりとして行うのをお勧めします。小さな喫茶店とか、学習塾の部屋とか、公民館の小さな会議室とか、いっそのこと、普通の家屋の居間とか・・・。そういう、生活の場から離れないところの小さな身近な場所こそが、独奏リコーダーの演奏にふさわしい場所なのです。
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