W.A.モーツァルト
ソナタ ホ短調 K.V.300c(304)
※ 演奏例がお聴きいただけます
★この曲を収録したCDつき楽譜★
SV008 ヴァイオリン用 2800円+税
SV023 ヴァイオリン用 3800円+税
SF014 フルート用 2800円+税
SF027 フルート用 3800円+税
★解題★
原曲はヴァイオリンソナタですが、フルートへの編曲譜がいくつもの出版社から出版されており、フルートでもたいへん美しく演奏できます。
モーツァルトのヴァイオリンソナタは、この不世出の天才が、その輝かしい才能を最も存分に発揮したジャンルのひとつであり、この点でオペラやピアノコンチェルトと肩を並べると言っても過言ではありません。モーツァルトはウィーンきってのピアニストとして活躍しましたが、彼のひらく演奏会はピアノソロだけで構成されていたのではなく、むしろコンチェルトや歌を含むアンサンブル曲がたくさんプログラムに載っていました。幼少のころから家族(ヴァイオリニストであった父、ピアノが上手だった姉)や(父の)友人たちとアンサンブルを楽しみながら成長したモーツァルトは、「ピアノと他の楽器のアンサンブル」の曲を書くのがいちばん楽しかったのかも知れません。
そう言うと「でもヴァイオリンソナタではモーツァルトが弾くピアノは伴奏なのでは?」とお感じのかたもいらっしゃるかも知れませんが、実はモーツァルトの「ヴァイオリンソナタ」は、「ヴァイオリンの伴奏をもつクラヴィーアソナタ」と題されていたぐらいで、ピアノはけっして単なる伴奏ではなく、ヴァイオリンと協力して音楽をつくる二人の主役のうちの1人でした。そして、ピアノとヴァイオリンのためのソナタというジャンルにおいて、これらのモーツァルトのソナタこそがその理想の姿を示していると考えられています。
ホ短調・K.V.300c(304)のソナタは1778年にパリで出版された「マンハイム・ソナタ」とよばれる6曲セットのうちの1曲です。40曲以上あるモーツァルトのヴァイオリンソナタにあって唯一の短調作品で、同じころのイ短調ピアノソナタと同じく、お母さんの重病(ないし死去)の影響か、暗い情緒を持っています。技法的には「ヴァイオリン伴奏つきのピアノソナタ」から出発したモーツァルトがしだいに独奏楽器(ヴァイオリン)にも重要な役割を与えてバランスのよい対等の関係を打ちたてていく過程の作品です。
★解説★
2つの楽章から成っています。
第1楽章はアレグロ、2分の2拍子。ピアノの右手・左手と独奏楽器がすべてユニゾンで奏する第1テーマの前半は静かでぶきみな印象、これに対してスタカートの第2部分は激しい感情を吐露します。長調の第2テーマも力強い和音打ち鳴らしの動機と静かな合いの手をから成り、主題の中に対照的な要素を対立させています。劇的で緊密な構成の名作です。
第2楽章はテンポ・ディ・メヌエット、4分の3拍子。どこかさびしげなメインテーマはピアノで始まります。長調の副主題を2度はさむ、いわば A-B-A'-C-A'' といった形のロンド形式とみて良いと思います。「C」にあたる第2副主題の限りないやさしい慰めは耳に残りますが、さびしげなテーマは副主題を挟んで回帰するたびに影が増し、第1副主題・第2副主題の二度の慰めにもかかわらず悲しみの淵から這い上がらないままで走り去っていきます。
■ヴァイオリンによる演奏
第1楽章
第2楽章
※ヴァイオリン演奏: 棚田めぐみ ピアノ(電子楽器)演奏: 石田誠司
■フルートによる演奏
第1楽章
第2楽章
※フルート演奏: 大塚由貴 ピアノ(電子楽器)演奏: 石田誠司