作曲家紹介コーナー 高橋たかねさん
〜すぐれた初級者用作品を次々と〜
// ●プロフィール●
愛知県在住。作曲を松田宣正氏に師事。ひょんなことから「リコーダーソロイスト」(石田誠司著・カモンミュージック社)のモニターとなり、以後、リコーダー音楽にのめり込む。リコーダーJPでは、永年の音楽教室講師としての経験や医療分野での知識・技能を生かして、初心者サポートでも活躍。
所属団体
日本音楽療法学会
岐阜県音楽療法士協会
ぎふ音楽療法研究会
愛知県立看護大学看護研究会
ローランドミュージックスタジオ講師会
/登録作品リスト 曲 名 種 別 段 階 /友との再会/// /アルト二重奏/// /第1段階・第3段階/// /揺れる思い /アルト二重奏 /第2段階・第4段階 /春の日のように /アルト二重奏 /第1段階・第3段階 日だまりの中で /アルト二重奏 /第2段階・第2段階 幻想曲「秋草」 /アルト独奏 /第8段階
■■アルバム 「初心者二人で楽しむデュエット集」■■
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○○高橋たかね先生 直撃いんたびゅー○○
●たくさんの活動方面・リトミック
RJP:高橋さんは肩書きをすごくたくさんお持ちだそうですが。
高橋:えー、そうでもないですよ。今あるのは、岐阜県音楽療法士の名刺と訪問看護師の名刺だけです。
RJP:なんか音楽教室講師の資格もお持ちじゃなかったですか。
高橋:ローランドミュージックスタジオの、ピアノ・ポピュラーピアノ・リトミックの講師資格は持っています。でも、もとのビクターテクニクスがローランドに組み込まれたので、その関係でいまシステム再編が行われているところでしてね。私は今は実際の講師活動には携わっていないのです。
RJP:そうでしたか。「リトミック」の研究会にも入ってらっしゃるんでしょう。
高橋:ええ、全日本リトミック音楽教育研究会というのに入ってまして、月に一回の例会に参加しています。
RJP:それはどんな活動なんですか。
高橋:国立音大のリトミック科の先生が来てくださって。場所は幼稚園なんですが、初級科と研究科がありまして、初級のほうでは参加者は実際にリトミック教育を受講できるみたいな感じです。研究科のほうでは、参加者が交代で決められたテーマにそった授業案を考えてきまして、他のメンバーを模擬的な対象者として模擬授業のようなものをやるんです。
RJP:なるほど。実践をやって研究するわけですね・・・。えっと、すみません、そもそもリトミックというのはどういうものなんですか?
高橋:スイスの作曲家・音楽教育家のエミール・ジャック・ダルクローズが創始した音楽教育方法です。机にすわって楽譜の読み方から習うような方法ではなくて、まず耳から入った音楽に合わせて体を動かすようなリズム活動を通じて、体で音楽をおぼえていく。それから理屈の勉強に入る・・・という手法ですね。
RJP:なるほど、じゃぁ、ごく小さいうちから・・・
高橋:ええ、リトミックを取り入れているのは、子供むけの音楽教室とか、幼稚園とかの音楽教育ですね。最近は大人、高齢者のためのリトミックなんてのもありますけど。
●PTAコーラスの組織
RJP:PTAのコーラス部をお作りになったとか。
高橋:ええ、娘が卒園になる年、私はPTAの役員をお引き受けする巡り合わせになりまして。前々からお母さんたちのコーラス部があればいいなと思っていたんですが、行動を起こすには至っていなかったんです。で、娘の卒園がせまってきたとき、このまま終わるんじゃなくて何か残したいという気持ちになって・・・それで、同じ役員の仲間のお母さんがたに声をかけまして、作ろうよと。
RJP:なるほど。どんな歌を・・・
高橋:カトリックの幼稚園だったものですから、賛美歌とかやさしい歌などの楽譜は園のほうにも豊富にあったんです。それで、そういうものを・・・付属の教会で歌わせていただいたりもしました。幼稚園の授業を参観にいくとね、子供たちがいろいろ歌っているんですよ。中には私たちが知らないような歌もある。じゃぁそういう歌を私たちもおぼえて歌っていれば、家で子供といっしょに歌ったりもできるじゃないかと。そうい思いもあったんですね。
RJP:そうかそうか・・・。それで、今も行ってらっしゃるんですよね。
高橋:ええ、娘はとうに卒園したんですが(笑) ふつうはね、コーラス部に所属してらっしゃったかたは、子供の卒園とともにコーラス部も卒業なんですが、私と、もう一人創設に関わった人と二人は、今も呼んでいただけるので。もう一人のかたが指導者のようにやってらっしゃって、私は、その日のメンバーの都合で足りないパートの穴埋めで歌ったりしております(笑)
RJP:なるほど、ベテランらしい関わりかたですね(笑)
●作曲の勉強
RJP:あと、プロフィールによりますと、松田宣正先生について作曲を勉強なさったとか・・・どんなご縁でそういうことになったんですか?
高橋:ええこれは・・・娘がヤマハ音楽教室に通ってまして、たまたまそこで、「即興演奏講座」が始まるという募集ポスターを見たんです。
RJP:ピアノの即興演奏ですか。
高橋:ええ。
RJP:音楽療法士さんとして即興演奏の技術を身につけたいと・・・
高橋:いえ、そうじゃないんです。即興演奏は、リトミックに通うよりもっと前からですから、音楽療法に関わるようになるよりもずっと前の話なんです。
RJP:そうだったのですか。どれぐらいになるんでしょう・・・
高橋:もう6年ぐらいになります・・・年がばれますね(笑)
RJP:(笑) 即興演奏そのものに興味があったわけですか?
高橋:ええ・・・というか、私はDTM(注・デスクトップミュージック。コンピューターを使っての音楽制作)をずいぶん前からやっていたんですが、メロディーしかない楽譜からでは制作ができないので、伴奏までちゃんとついている楽譜を使うしかなかったわけです。それで、メロディーに自分で伴奏がつけられたらいいな、と思っていたんですね。
RJP:ははぁ。すると、即興というよりは、やっぱり作曲に対する関心ですよね・・・
高橋:そうですね。実際、私は長く習っていますが、そのわりには即興はさっぱり上達してなくて(笑) というのも、ほんとうは、先生が示された課題を見て、その場で、少しだけ考えて、すぐに弾く、というのが本来の勉強のしかたなんですが、私はそれだとできないので、宿題として課題をいただいて、家で考えて作って持って行くわけです。
RJP:じゃぁ、即興じゃなくて完全に作曲を習っているわけじゃないですか(笑)
高橋:そうなんですよね(笑) まぁ個人レッスンなので、先生も、自分のペースで自分に合う方法でやっていいですよ、とおっしゃってくださるので・・・
●作曲家デビュー
RJP:そうやって勉強なさったことが、リコーダーJPに、すばらしい初心者用の作品をお寄せいただくことにつながったわけですね。
高橋:まぁそうですね、自分が作曲作品を発表するなんて思ってもいなかったですよ(笑) 石田さんの「リコーダーソロイスト」の製品モニターをやってリコーダーに興味を持って・・・とうとう自分でも曲を書いてみたくなって、「こんなのができたけど、どうでしょう」と、石田さんにお送りしたんです。そしたら、とても誉めていただけて。
RJP:なるほど・・・。それが、初心者二人でできちゃうというデュエット「友との再会」だったわけですね。なんと作曲家としてのデビュー作!
高橋:はい(笑) あのころ、リコーダーJPはまだ準備段階で、曲ラインナップを揃えていっているところだったらしいですが、ちょうど、「第1段階(ドレミの3音だけで演奏する段階)」の人が演奏できるデュエット曲というのがなかったんですね。その点でも貴重だといわれて。
RJP:ええ、とくにすばらしかったのは、第1段階の人と、もう一人が、6段階とか7段階じゃなくて、まだ初心者の域を出ない「第3段階」の人が演奏できる曲だったことですよねぇ。
高橋:ええ、そこを狙ったわけです(笑)
RJP:いやいや、高橋さんが先鞭をつけてくださったので、その後、近藤さんが「吹き流し」を書いてくださったり、石田さんの「朝の歌」が登場したりと、初心者のかたが楽しめるデュエット曲がずいぶん充実しましたからね。パイオニアとしての功績大きいと思いますよ。
高橋:そう言っていただけると本当に嬉しいです。
●音楽療法士として
RJP:さて、しかし、高橋さんは音楽療法士(注・資格としてお持ちなのは「岐阜県音楽療法士」)としての活動に最も力を入れていらっしゃるとお聞きしております。それについて少し伺いたいのですが、「音楽療法」ってのは、ひとくちで言いますと、どういうものなんでしょうか。
高橋:ひとくちで・・・それはいちばん難しいご質問です(笑)
RJP:いえ、ひと口が無理なら五口ぐらいでも結構なんですが(笑) でも、まだあまり一般に馴染みがない言葉ですから、短く説明しなきゃいけない機会は多いでしょう? 岐阜県音楽療法研究所で、ちゃんと研究しないと駄目なんじゃないですか(笑)
高橋:ええ、実は岐阜県音楽療法士協会の「ふれあい学び会」で練習しました(笑) 聞き手役と答える側役に別れましてね(笑)
RJP:へぇー(笑) ではその成果を・・・(笑)
高橋:はい(笑) ひとくちで言えば、音楽療法とは、「音楽を使って、療養上・生活上の問題をかかえた人を援助する」ことです。あるいは、「目的を持って音楽を使うこと」だと言うこともできまして、その目的のなかには、いろんなものが含まれます。たとえば、コミュニケーションがうまくできないかたのコミュニケーションを促進するとか、音楽の推進力というのですが、体の動きを誘導する力を利用してリハビリなどに活用するとか、音楽が持つ沈静の作用を生かして、落ち着きを欠くかたが心を集中させるのに役立てるとか・・・・他にもたくさんありますが。
RJP:なるほど・・・。では、その目的にそって、実際の計画を立てて実施する人が・・・
高橋:ええ、それが音楽療法士だということなんですね。身体面に対する効果もありますが、精神面の効果もあって、たとえば生きる意欲をなくしている人を勇気づけることだってあります。
RJP:すごいものですね。
高橋:ええ、とても幅広いものでね。音楽療法というと、よく歯医者さんで流れたりしている「ヒーリングミュージック」とか、アレがそうでしょ、みたいに言われるんですが、そんなのは音楽療法の中の、本当にごく一部でしかないんです。
RJP:実際に療法士さんとして活動されて、印象に残っていらっしゃることなんか、ありますか。
高橋:そうですね・・・。ある高齢者で痴呆がずいぶん進んだかたがいらっしゃいまして、もう自分の名前も言えないし自分がどこにるのかもおわかりにならない。当然、言葉をかけても反応がないんですね。ところが、みんなで昔の唱歌なんかを歌うというセッションを行っているうちに、いっしょに口ずさむ、ということが始まって。
RJP:なるほど。
高橋:ええ、若いころに習いおぼえた「歌」を思い出して、すらすら歌って、みんなを驚かせたんです。
RJP:すごいものですね。
高橋:ええ。もちろんそれで急に何かが変わるというのではないんですが、やはり日ごろ接している職員さんたちが見る目も変わってきますし、ご本人も、いろんな周囲とのやりとりの中で笑ったり、表情が生き生きと豊かになっていった。
RJP:それが生きているということですものねぇ・・・
高橋:他にも、寝たきり状態だった高齢者のかたに、歌を使ってアプローチしまして・・・はじめは身体的な、歌に合わせて体を動かすということから始めましてね。そうしているうちに、私との時間をとても楽しみにしてくださるようになって、生きる意欲がわいてこられた。やがては、寝たきりだったかたが、立って、つたい歩きまでできるようになったんですよ。
RJP:高齢者のかたの機能が、音楽を通じて、回復されたわけですね・・・。ふつう高齢者ってのはもう機能を維持するのが精一杯でしょう。
高橋:ええ、そうなんです。リハビリ的なことをやるにしても、号令に合わせてやるんじゃ苦痛でしかないじゃないですか? そこに音楽が入ると、楽しくなって、ぜんぜんちがうんです。
RJP:すばらしいですね。音楽療法というのは、これからのジャンルですよね。
高橋:ええ、ようやく日本音楽療法学会という正式団体ができまして、いま、国家資格の創設へと運動中です。もし国家資格ができたら、音楽療法では日本より50年進んでいるといわれるアメリカよりも先んじる、画期的なことになるんですけどね(笑)
RJP:ぜひそうなりますように。これからも頑張ってください。リコーダーJPもお忘れなく(笑)
高橋:もちろんです(笑) こちらこそどうぞよろしくお願いいたします。
(2002.07.02).
〜高橋たかねさんについて〜
高橋さんは本当に多面的な才能をお持ちのかたで、音楽だけでなく医療の専門技術もお持ちなので、音楽を医療に応用する研究や活動も行っておられる。私事じみて恐縮だが、リコーダーには拙著「リコーダーソロイスト」によって興味をお持ちいただき、演奏されるようになられたのだということを、ここでぜひご紹介させていただきたい。
作曲作品は、しゃれたポップな味わいとしっかりした構成が特長だと思うが、とくに、厳しい制約の中で作曲された「友との再会」は秀逸である。響きの良さといい、なつかしくてあたたかな風情といい、すみずみまで魅力にあふれている。リコーダーを始めて間もない初心者が二人でこの作品を楽しんだならば、二人にとって、作曲者・高橋たかねさんの名は、忘れられないものとなろう。(2002.03.17)
リコーダーJPディレクター 石田誠司