初級者のための、楽しくためになるコラム
VIVA! リコーダー その5

坐っていないと出せない音





■坐っていないと出せない?

 リコーダーは軽くてコンパクトな、携帯に便利な楽器です。気が向いたときに、ポケットやかばんからひょいと取り出して演奏することもできます。ですから、立って吹こうが座って吹こうが、はたまた歩きながら吹こうが寝転んで吹こうが、奏者の思いのまま。

 しかし、「実は座って吹いているときでないと出せない音がある」と言うと、驚かれるかたもいらっしゃるでしょうか。今回は、「座っているとき限定の音」のお話です。


■高いファ#

 アルトリコーダーの最高音は、「2」の指穴だけ押さえる「ソ」の音よりも、さらにオクターブ高い「ソ」の音です。楽器によっては、かなり強めのタンギングで、強い息を入れないと出ない、ちょっと出しにくい音ですが、たしかに出ます。指使いは「φ1346」です。(7も押さえた方がよい楽器もあるようです。)

 ところが、この音よりも半音低い「ファ#」の音がうまく出る指使いが、アルトリコーダーでは、どうしても見つかりません。864種類も指使いの可能性があるのに、どうやっても駄目。いちばん近い音がするのは、「φ13457」という指使いですが、ちょっと音程が高すぎる(ソに近い音になる)のです。しかし、他に適当な指使いがないので、やむを得ないときは、この指使いを行うことになります。辛いですね。

 ただし、ほぼ正確な「ファ#」といえる音を出す方法が、実はあります。これが、座っていないとできないのです。ご承知のかたも多いでしょうが、その方法をご紹介しましょう。

 上の「ソ」の音の指使い(7の指を押さえないほう、つまり「φ1346」)をします。そうしておいて、膝に楽器の先端を置いて軽くふさぐようにして吹いてみます。高い音域ですから、そう鳴りやすくはありませんが、たしかに、こうやるとみごとに「ファ#」の音が鳴るのです。

 立って演奏しているときは、膝で楽器の先をふさぐなどもちろん普通は不可能です(もっとも、やるかたもいらっしゃるそうですが)し、座っているときでも、速い音符では困難です。そういうわけで、アルトリコーダーで「3オクターブ目のファ#の音」は、一種の「鬼門」です。他の音は、音域内ならば全部出るのに、これがちょっと悔しい。


■低いミ

 さて、では、膝などで楽器の先端をふさぐ、という「ワザ」があるのだとしたら、この手法を使って、他にも何か面白いことができないでしょうか。これが、いろいろあるのです。たとえば最低音ファよりも低い音を出すことができますし、その他、普通には音域外ということになっている、上のソよりもさらに高い音を出したりすることもできます。いろいろやってみると面白いですよ。三浦美彦さんという奏者のかたは、ソプラノリコーダーを使って3オクターブもの音を演奏されます。

 ここでは、「最低音ファよりも低いミの音」を出す方法だけご紹介しておきましょう。それは、ファの指使い(指穴をすべて押さえる)をして、楽器の先端も少しふさいでやるのです。

 高い「ファ#」を出すときと違って、指穴を全部押さえているわけですから、楽器を膝にぴったり押し付けてしまっては、リコーダーは、穴が全部ふさがった、言わば細長い試験管のようなものになってしまいます。もちろんこうなると楽器に息が入らないため、まるで音が出ません。ですから、管の先端を完全にふさいでしまうのでなく、息が出てくるときに軽く抵抗を与えてやるように、少し斜めにした楽器の先を膝に置くぐらいにします。こうやると、「ミ」の音に近い音を鳴らすことができます。

 ただし、ふさぎ加減で音程が変わりますので、かなり難しいうえに、とても弱々しい音ですから、使い物になるかどうかは何とも言えません。「ファ」でさえも、他の音に比べてあまり強い音が出ないので「実用外」と言う人がいるぐらいですから、こんな「ミ」の音は、なおさらですね。


■コンテンポラリー・アルト

 ところで、コンテンポラリー・アルトリコーダーと呼ばれる楽器の仲間では、この「ミ」の音が、非常にしっかりした音で強く鳴らせるものがあります。この音を鳴らすためのキーがついていて、左手小指で操作するようになっているのです。私は、これを持っている友人に吹かせてもらったことがありますが、ミが出るというだけではなく、ふつうのアルトリコーダーでは強い音が出にくいファの音も、とてもしっかりした音で鳴ってくれました。

 音域で言えば、ファよりもたった半音低い音が出る、というだけのことなのですが、この「ミ」の音が出せるかどうかは、いろいろなアレンジものなどを演奏するときにはかなり大きな違いになります。作曲家にしても、このミの音が使えるのなら、作曲における自由度がふつう想像される以上に大きくなり、その差は小さくありません。バッハのロ短調のフルートソナタだって、コンテンポラリーアルトなら元の楽譜のまま吹けます(普通のアルトでは何度か出てくるミの音が出せません)。

 ただ、コンテンポラリー・アルトは、まだほとんど普及していないため、生産が少ないらしいのです。したがってかなり高価で、そもそも簡単には手に入りません。また、プロ奏者でも、これをステージで使う人は少ないようです。


■「現代に生きる古楽器」の、これからの可能性

 そういうわけで、リコーダーJPでは「低いミ」を使う曲を採用する(作曲家に書いてもらう)予定は、今のところありませんが、リコーダーは、実は、このように楽器製作者が改良を加えることによってその可能性が広がってくる余地をいろいろと持っている楽器なのです。それというのも、何しろ、ふつうのリコーダーは、17世紀の当時の姿のままですから。

 そう、リコーダーは小学生でも吹いていることから、一般のかたのなかには「最近できた楽器だろう」と思っていらっしゃったかたも少なくないのですが、実は、言うまでもなく、数百年も前の姿をそのまま復元した、「古楽器(こがっき)」と呼ばれる非常に由緒正しい楽器の仲間なのです。

リコーダーJPディレクター 石田誠司  

  

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