■リコーダーだけの重奏形式
現在よく使われるリコーダーとして、ソプラニーノ、ソプラノ、アルト、テナー、バス、そして「ボイスフルート」の6種類を挙げることができると思います(これ以外にもグレートバスその他、特別低い音のリコーダーやクライネソプラニーノという特別高い音のリコーダーなどがありますが)。ボイスフルートを除く5種類は、よく組み合わせてアンサンブルに用いられます。※
リコーダーに限らず、単音楽器のアンサンブルでは、2重奏は少し我慢した編成(完全な音楽をやるには少しさびしい編成)で、3重奏からがまずまず完全な音楽がやれる編成だと言えますが、3重奏でもまだ少々窮屈さが残っています。無理なく完全な音楽が演奏できる編成としては、4重奏というのがバランスのいい編成なのです。ですから、弦楽器でも弦楽四重奏という編成がよく行われますし、合唱でも混成四部合唱というのが最もポピュラーな編成になります。
そこで、リコーダーでも、「リコーダー4重奏」という編成がもっともよく行われ、市販楽譜も豊富にあります。
※ ボイスフルートは、アルトとテナーの間の高さの楽器で、昔のフルート(フラウト・トラヴェルソ)と同じ「D管」(レで始まる音階の楽器)であるところに特徴があります。これを用いると、フルート用の曲がそのまま演奏できるのが大きなメリットだということになっています。ですが、それだけではなくて、アルトの音色をいっそう深みあるものにした楽器で、テナーは独奏楽器として少し渋すぎるとしても、ボイスフルートにはアルトに負けない魅力があると思います。
■SATB, AATBなど
リコーダー曲の楽譜のカタログのたぐいで、「SATB」などという表記をごらんになったことがおありではないでしょうか。これは、「ソプラノ、アルト、テナー、バス」をそれぞれのつづりの頭文字をならべることで表したもので、曲の楽器編成を短く言い表したものです。(2重奏の曲などでも、SAとかAAとか書かれていることがよくあります。)
リコーダー四重奏では、SATBとAATBが代表的な編成だと思いますが、他にもAAABだとか、SSATなど、いろんな編成の曲や、アレンジの楽譜が存在します。SATBの編成は、ソプラノのするどい音がよく浮き立ち、全部の楽器がうまく溶け合うのは難しいかわり、はなやかな音色的多彩さに特徴があるように思われます。対して、AATBの編成では、4本の楽器がよく溶け合った、ハーモニーの美しさの魅力が出やすいのではないでしょうか。
■リコ-ダー重奏の魅力
別なところでも述べましたが、リコーダーJPが「独奏楽器としてのリコーダー、独奏リコーダー」という場合に、このような重奏リコーダーはほぼ含めて考えています。リコーダー四重奏に代表される重奏アンサンブルは、だれが主役でも脇役でもない対等な数人の奏者が協力してひとつの音楽をつくる形式で、リコーダーの独奏楽器としての良さとアンサンブルの楽しさを兼ね備えた、リコーダー演奏の最高の楽しさが味わえる編成のひとつであると思います。
ただ、泣き所は、名曲には必ずしもめぐまれていない・・・ということでしょうか。リコーダー重奏曲には、バロック作品がほとんどありません(それより前のルネサンス時代の作品はかなりあるようですが)。もっとも、現代の作品について言えば、「チェンバロ伴奏の独奏・重奏曲」よりは多いかも知れません。ですが、アマチュアが演奏して楽しむのにふさわしい曲となるとそれほどたくさんないようで、やはり「アレンジもの」が中心の世界になるのはやむを得ないようです。
■リコーダー重奏の名曲
私が個人的にいちばん好きなリコーダー重奏曲は、バロック作品では、テレマンの無伴奏二重奏曲、「フーガの技法」などバッハの作品(これはリコーダーを指定した曲ではありませんが、もともと楽器指定がないので、リコーダーでやるのも正しい扱いだと思います)です。しかしバロック曲ではとくに好きなものとなるとそれぐらいで、あとは、やはりルネサンス時代のウィリアム・バードやヘンリー・パーセルなどの作品がすばらしいと感じます。リコーダーで演奏して最もすばらしい作品は、やっぱり、作曲家がリコーダーのために書いた作品か、または、リコーダーが親しまれていた時代の、「リコーダーでやってもかまわないという曲」たちなのではないでしょうか。
「やってもかまわない」だなんて妙なことを言うようですが、古い時代には、ある曲を演奏するのに、楽器を厳密に指定しないことはよくありましたし、また、楽器が指定された曲でも、それを別な楽器で演奏することが、たいへんよく行われました。したがって、そういう時代の音楽作品は、「楽器に依存する性質が強くない書法で書かれている」傾向が強いのです。つまり、モダンピアノやらエレキギターでやるというのはちょっと困るかも知れないのですが、少なくとも当時使われていた楽器であれば、どの楽器でやってもしっくり来るように書かれているものが多い、ということです。
リコーダー重奏においても、現代の(しかもアマチュアが楽しんで演奏できるような)新しい名作がぞくぞくと生まれてくるようになればすばらしいと思うのですが、そのためには、リコーダ−重奏がもっとさかんになる必要があるのでしょうね。
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