2002年2月
ハッセルハウス サロンコンサート
●DATA
場所
カフェ ハッセルハウス(兵庫県宝塚市仁川)
とき
2002年2月2日
出演
高橋たかねさん、石田誠司さん(以上リコーダー)、伴奏CD制作=石田誠司、森 好美
曲目
1 ソナタ イ短調 HWV362全曲(ヘンデル)
2 ソナタ ト短調 BWV1020(バッハ)
3 ロマンス(石田誠司)
4 キャラバン(堀内貴晃)
5 雨の日曜日(堀内貴晃)
6 まどろみ(堀内貴晃)
7 吹き流し(近藤浩平)=初演
8 山羊のいる風景(近藤浩平)=初演
9 山小屋の4つの窓・全曲(近藤浩平)
10 秋の孤独(石田誠司)=初演
11 揺れる思い(高橋たかね)=初演
12 友との再会(高橋たかね)=初演
13 お鍋のワルツ(藤岡恵子)=初演
14 鳥たちのあいさつ(森好美)=初演
15 ソナタ ト短調 HWV362全曲(ヘンデル)
●どんなコンサート?
作曲家・近藤浩平さんと、MIDIチェンバリストで作曲家、アマチュアリコーダー奏者でもある石田誠司さんとの共同企画で、サロンdeリコルダ(リコーダーJPの前身)が主催して行われました。会場のカフェ・ハッセルハウスは、阪急仁川駅からすぐのところにある、ペンションふうのとてもおしゃれで雰囲気のよいカフェです。
●聴きにいらした人は?
お近くのかたも多かったのですが、ミニコミ誌などで紹介されたため、電車に乗ってわざわざお越しくださったかたもたくさんいらっしゃいました。午前公演と午後公演があり、合わせて40名ぐらいのかたが聴いてくださいました。
●どんなふうだった?
クラシック独奏曲すべてを担当した石田さんにとっては、プレッシャーのきつい演奏会になったようで、演奏がたいへん不出来になってしまいました。「メディアに掲載された告知をごらんになってわざわざ遠くからお越しになったかたも多いというこが予約状況からわかっていたし、プログラムもいささか自分には荷が重すぎた」との反省の弁があります。
よろしければ、当日のようすを温かく紹介してくださった「そしがや」さんのレビューで、様子をごらんください。(この文章は、サイト Music Fan & Reviews に掲載された文章を、筆者のそしがやさん、およびサイト主宰者のかたのご好意により、転載させていただいたものです。厚くお礼を申し上げます。)
そしがやさん執筆のレビュー 2002年2月14日
Music Fan & Reviews より転載
■はじめに
今回取り上げるのは、リコーダーの演奏会です。
リコーダーといいますと、小学校や中学校でソプラノリコーダーやアルトリコーダーを習った方も多いかも知れません。もっともそれ以降、趣味などで吹かれている方は少ないのではないでしょうか。
リコーダーという楽器は、19世紀に一旦姿を消した楽器です。それは、音量が出る楽器ではないために、大きなホールで演奏するのには不向きということで、19世紀以降の商業的な興行に合わなくなってしまったために、一旦表舞台から姿を消してしまったのです。最近になって独特の響きと、比較的容易に演奏できるなどの理由で、リコーダーについては復活の兆しが見えています。こうした中で、新しいリコーダーの作品も生まれてきています。
ここでは、そういった動きのひとつとして、この演奏会をとらえていきたいと思います。
今回のコンサートは、MIDIチェンバロ・MIDIピアノ奏者・アルトリコーダー奏者の石田誠司さんと、兵庫県宝塚市に在住の作曲家・近藤浩平さんの共同企画による、アルトリコーダーとMIDIによるチェンバロ伴奏のサロンコンサートです。なお、もう一人の演奏者の高橋たかねさんは、名古屋在住のアルトリコーダー奏者です。
会場のカフェ ハッセルハウスですが、阪急今津線仁川駅から歩いて3分の住宅街の一角にあり、作曲家・近藤浩平さんの実家でもあります。普通は喫茶店として営業していますが、今回は特別に2階をコンサート会場としています。
洋風の2階建てで、山小屋を思わせる三角屋根を持ち、内装は黒檀色の木の柱と白い壁からなります。2階の縦長のスペースの中に、木の椅子やソファを並べて、そこを演奏会場としていました。収容人数は30人くらいです。
ステージはなく、間近の席に至っては演奏者との距離は1mあるかどうか、といった具合で、サローネ・クリストフォリ(前回の天満敦子レビューを参照)に負けず劣らず、演奏者と観客との距離がメチャクチャ近いです。
音響についてはよくわかりませんが、普通の家で楽器を鳴らしている、といった感覚です。外の車の走る音などが聞こえてくるのは、ちょっと難ですが、内装がシックで、なかなか良い感じで聴けます。
今回はMIDIによるチェンバロ演奏ということで、楽器(チェンバロ)の代わりにノート型パソコン、アンプ、スピーカーなどからなる音源があります。それを演奏者の石田さんが操作して、それに合わせて演奏する、というわけです。「それなら、その音をあらかじめ録音して、単純に再生すれば良いではないか」と言われるかも知れませんが、パソコン上で設定した音を鳴らす形では、テンポの設定や基準音の高さ(A=440Hzなど)、平均律などの律を自由に変えられるというメリットがあります。これは、録音した音には出来ないことです。
スピーカーなどの機材は、それ程高価なものではありませんでした(スピーカーはおそらくYAMAHAのNS-10M。うちにもあるスピーカーです)。それでもなかなか良い音を出していました。チェンバロの音に関していえば、まずまず、といったところでしょう。ただ、テンポや音自体の揺らぎが少ないので、「音が不自然だ」と思う人もいるかもしれません。
会場に着いたのは、開演10分前。土地勘がなかったので、少し迷いました。既に席は満席に近くなっており、何と一番前の席に座ることになりました(そこしか空いていなかったのです)。ここで間近で聞くことになるとは......
実は、この演奏会は大変な人気で、当初はこの午後2時からの演奏だけだったのですが、予約が多く好評により、午後4時半からの部を追加したそうです。それでもキャンセル待ちが出た、というのですから、すごいです。1回の収容人数が30名程度で無料とはいえ、これだけバロック音楽・リコーダーに対する関心があるとは、大したものです。ひょっとしたら、キャンセル待ちのお客さんのために、再演の計画も出てくるかも知れません。
■演奏会レビュー
午後2時。石田さんと高橋さんが登場します。楽器の紹介や曲目の紹介が、半ば二人の漫才みたいな感じで進んでいきます。これはなかなか良い感じです。
今回は、ヘンデル、バッハはじめ、石田さんや近藤さんらの新作もありで、盛りだくさんです。プログラム上では3部構成となっていますが、実質休みはなく、2時間近くぶっ続けで、演奏&曲目紹介(漫才?)が行われていきます。
石田さんはリコーダー演奏をしますが、曲の始めに、傍らにあるノートパソコンを操作して2、3拍メトロノームのような音を出させて、その後始まる伴奏と合わせて演奏します。このあたりは、普通の演奏会とは違うところです。
そして、最初の曲、ヘンデル、バッハのソナタが始まります。
ヘンデルのソナタイ短調は、リコーダーのために作られた1725〜6年頃の作品で、気品と音の動きの面白さが見事です。バッハのソナタは、もとはフラウト・トラヴェルソ(フルート)のための曲と考えられていて、バッハはバッハでも、大バッハの息子のC.P.E.バッハの曲といわれています。劇的な表現が魅力的な曲です。
演奏についてですが、最初のヘンデル、バッハは、難しすぎたかな、という感じがしました。楽章と楽章の間で休んでしまったり、指がついていかないところがあり、細部の表現はまだまだかな、と思いました。もっとも、石田さんはリコーダーを始めて2年ということもあり、人前での演奏の経験不足もあったと思います。きっと練習の時は、もっと良い演奏をしていたのでしょう。
面白いと思ったのは、確かヘンデルの曲の第4楽章だったと記憶していますが、これを改めて速いテンポで演奏して見せたことです。伴奏のスピードを容易に変えて演奏できるあたり、MIDIの面目躍如、といったところです。
続く、「現代作家のこころみ」では、演奏の方は少し落ち着いたかな、と思いました。難しい曲がそれ程なかったのも、幸いしたと言えるでしょう。
どの曲も、それぞれの個性があって、面白いと思いました(なお、後述しますが、リコーダーのデュエット曲もあり、それは石田さんと高橋さんによる演奏となります)。
簡単に曲の紹介をしますと、
●石田誠司さんの「ロマンス」は、初心者向けアルトリコーダー独奏曲集「リコーダーソロイスト」の冒頭の曲です。リコーダーによる主旋律はドレミの3音だけで構成される、平明な曲です。
●藤岡恵子さんの「そよ風のメロディー」は、これまたドレミの3音だけで演奏できる初心者向けの曲で、先程の曲とは異なりポップな感じです。藤岡さんは大阪府在住の若い作曲家で、後述する「お鍋のワルツ」を含めた「家事のワルツ」シリーズを連作中です。
●堀内貴晃さんの「アルトリコーダーのための3つのやさしい小品」は先述「リコーダーソロイスト」の曲から3曲を取り上げています。それぞれ「キャラバン」「雨の日曜日」「まどろみ」と名付けられており、現代的な独特の和声が特徴です。堀内さんは武蔵野音大作曲家卒・東京都在住の若い作曲家です。
●近藤浩平さんの「吹き流し」は、風の吹き抜ける感じの曲です。「山羊のいる風景」は、牧歌的であり、かつ哀愁の感じられる曲です。「山小屋の4つの窓」は4曲からなる組曲で、山のそれぞれの情景を描いたような楽想を持ちます。いずれもリコーダーのデュエットによる作品です。近藤さんの曲は現代的な響きと、調性を感じさせる響きとが微妙に入り交じっていて、どことなくプロコフィエフに似ていると思いました。
●石田誠司さんの「秋の孤独」はその名の通り、情緒的な曲で、これもデュエットです。
●高橋たかねさんの「揺れる思い」「友との再会」もデュエット曲で、素朴なメロディーが特徴です。
●(先程も出てきました)藤岡恵子さんの「お鍋のワルツ」は、ジャズワルツ風の軽快で楽しいデュエット曲です。
●森好美さんの「鳥たちのあいさつ」は、雄大な感じのするデュエットです。大阪音大作曲家大学院修了の若い作曲家で、この曲ではMIDIチェンバロも森さん自身が演奏しています。
......これだけ盛りだくさんなので、紹介するのも大変です。1曲1曲は、2〜3分程度の短いものではありますが。
しかし、これだけ新しい曲を書こうとする動きが出ている、ということであり、注目すべき事ではないかと思います。
実際に演奏を聴いてみても、一定水準のレベルに達している楽曲ばかりですし、これから先につながるものを感じさせました。
個人的には、近藤さんの「山小屋の4つの窓」、藤岡さんの「お鍋のワルツ」、森さんの「鳥たちのあいさつ」が良いと思いましたが、それ程楽曲の優劣などは感じませんでした。演奏が違えば感想は変わってくるかも知れませんが......
最後にヘンデルのソナタト短調。これもヘンデルの傑作のひとつで、先述のイ短調ソナタ同様に、通奏低音が難しい作品です。
これも、ちょっときつかったかな、と思いましたが、先程のヘンデルに比べると、指は回っていたようでした。やっぱり緊張したんでしょうか。音の伸びやかさが出てくると良いです。
アンコールはありませんでしたが、特に違和感はありませんでした。
石田さんと高橋さんの2人が話している時間が長かったこともあってか、和やかな雰囲気に終始し、すんなりと演奏会は終わりました。
演奏の終了後、1階にあるカフェでコーヒーを出していただきました。こういうところも良いです。そして石田さん、近藤さん、高橋さんとお会いして、今回の演奏会について等、いろいろと話をしました。細かい事情などがわかって、面白かったです。
■ あとがき
演奏自体は、演奏者の石田さんが不慣れであったこともあるのでしょう、必ずしも十分な出来とは言えませんでした。結構音をはずすところも見受けられましたし、演奏に余裕がありませんでした。
あと、プログラムを欲張りすぎたかな、と思いました。
間にトークも交えて、約2時間近くぶっ通しで、休憩もありませんでしたから、さすがにこれでは、演奏する側も聴く側も大変です。やはり途中に10〜20分のインターバル兼休みを置いた方が良いです。その間、聴く側も休めますし、
あるいはその間に演奏者の方で譜面や楽器などの紹介をする、という手もあります。曲の数も、いささか多かったかな、と思いました。これでは、なかなか全曲の練習が出来ず、演奏の精度も落ちてしまうからです。
アンケートの結果では、ほぼ手放しで喜んでくださった方と、すっかりがっかりされた方と二分されたそうです。これは、近藤さんも指摘されていましたが、リコーダーに対する受け止め方が、人によってはっきり分かれているためと見られます。
本格的なクラシックの楽器としてのリコーダーを知らない方と、バロック音楽の楽器として既に認識されている方がいて、前者は期待以上ということで喜び、後者は普段接している本格的なバロック音楽と比較されて、期待ほどではなかったから、と見られます。後者の方が結構いるということは、それだけこの地域のバロック音楽に対する認識のレベルが高い、ということではないでしょうか。だからこそ、キャンセル待ちが出るほどの人気をかちえたのではないか、とも思うのです。
そして、今回のような試みは、注目すべきものであると思います。
演奏者と観客の距離が極めて近いこと、そして手軽に開けて身近なものに感じられること、これは大切な要素です。19世紀以降において、音楽は多くの人によって聴かれなくては興行上成り立たなくなった、ということもあり、このような形での身近な演奏会はなかなか開かれなくなった、という歴史があります(それとともにリコーダーも一度忘れ去られたのです)。今日、コンピュータの利用など、今回のような新しい形での「演奏会の原点」に帰った試みがなされることは、これからの音楽を考えていく上で、避けて通れないからです。きっと私達の身近なところでも、こうした動きが出てくることでしょう。どのような形で音楽と接する機会を持つのか、それが問われているような気がします。
単に、数百人、数千人相手にコンサートを開くだけが能ではありません。今後、石田さんがどのような提案をしてくるのか、注目していきたいと思います。
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